私達は何を求めているのか

2000.06.09

著作隣接権の獲得に向けて

1. はじめに

JAREC(日本ミキサー協会)が発足してから早1年近く経ちました。その間、協会の内外を問わず様々な方からたくさんのご意見ご質問を頂きました。「著作権はいつ取れるのか?」、「印税が入るようになったら協会に入っても良い」、「アレンジャーも取れてない権利をレコーディングエンジニアが取れる訳ないのではないか?」、「協会は著作権獲得のための活動を本当にやっているのか?」等々…。

これをお読みになっている方々の中にも同じような疑問や意見をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、皆さんそれぞれにごもっともな話ばかりで、こちらとしては何も言えなくなってしまうのです、でもちょっと待って下さい。私達は勿論何もやっていないわけではありません。遅々とした歩みかもしれませんが着実に前進しています。ただ、これまであまりにもインフォメーションが少なかったことは事実ですし、反省しています。そこで今回私達の考えとその動き、そして今後の見通しについて簡単に説明したいと思います。

2. 著作権と著作隣接権

まず始めにはっきりさせなければいけない事は、私達が主張している権利は「著作権」ではなく「著作隣接権」だということです。おわかりの方も多いと思いますが、著作権と著作隣接権は似てはいますが、両者は違うものなのです。とても大切な事なので、ここではまずこれら2つの権利について簡単に説明させて下さい。

「著作権」とは音楽に限った場合(この後も基本的には音楽に限定して話を進めます)、作詞あるいは作曲をした人(著作者)が自分の曲(著作物)を CD 化したり放送したりして利用する権利のことで、通常著作者が自ら利用することは希なため、この権利は他人に対して「著作物の利用を許諾する権利」と言えます。ただ利用者がいちいち著作権者に利用の許諾を得るのは大変な事なので、日本においては通常 JASRAC(社団法人・日本音楽著作権協会)にその管理を委託し、実際の許諾業務は JASRAC が行っています。JASRAC は基本的に CD・ビデオ・放送などの利用についての楽曲使用料金を設定していて、利用者はそれに従って JASRAC に利用料金を支払うことになります。それらのお金は音楽出版社などを通して印税という形で著作者に支払われることになります。

これに対して「著作隣接権」というのは、実際に作詞・作曲はしていないが、音楽において創造的行為が認められる人に与えられる権利です。たとえば、あるアーティストが他人の曲を歌ったとしましょう。これを誰か他人が勝手に録音し(この場合、JASRACには楽曲使用料を支払ったとします)世の中にばらまいたらどうなるでしょうか? JASRAC には楽曲使用料を払っているから海賊版とは言えないかもしれません。でもそんな事が許される訳はないでしょう。また、製品として市場に出回っている CD を勝手に複製され、ばらまかれても困ります。そのためアーティストの歌やミュージシャンの演奏、そして CD や放送番組などの製作には著作権に準ずる権利として「著作隣接権」が認められているのです。

3. 私達は何者か?

著作隣接権を持つのは「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」の4者です。このうち私達が直接関係するのは前2者です。それではこの2者についての定義を「著作権法第二条の条文」から見てみましょう。

A. 実演家

実演とは、著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的性質を有するものを含む)をいいます。

B. レコード製作者

レコード製作者とは、レコード(蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの)に固定されている音を最初に固定した者をいいます。

これだけを見ると私達はレコード製作者ではないか?という気がしてきます。そうです、私達はまさにレコード製作者の一員でもあるのです。レコード製作者の権利は一般に「原盤権」と言われ、「複製権」「二次使用料を受ける権利」「貸与権」等の権利を持っていて、通常レコード売り上げの一部から原盤印税という形でその報酬を得ています。そしてレコードはこの原盤印税から得られるであろう収入を元にして設定された原盤製作費によって作られているのです。もちろん私達のギャランティーもこの中から支払われています。そして時として我々にもプロデュース印税という形でこの原盤印税の一部が支払われる事があります。このプロデュース印税こそ我々がレコード製作者の一員として認められた証なのです。つまり著作隣接権者としてレコーディングエンジニアはすでに認められた存在でもあるのです。

ただ、まだまだこのような形は一般的ではありませんし、レコード製作のたびにレコード会社や原盤製作会社との契約が必要になるという面倒な部分もあります。

しかし、もちろん可能性があるのならば交渉してみる必要があるでしょう。いずれにしても、この契約が成立するか否かは個々のケースによって変わってくるため、協会として行動を起こすほどのことでもない・・・と今のところは考えています。

では私達は一体何を主張しているのでしょうか? もう一度実演家の定義を見て下さい。さりげなく色分けしてあるところがあります。つまり実際に楽器を持って演奏していなくても、それに類する行為があれば「実演家として認める」と言うことなのです。この部分の解釈により、実際には指揮者やシンセサイザープログラマーなどが既に実演家として認められているのです。レコーディングエンジニアであれば当然ご理解いただけると思いますが、私達はまさにこの定義によって実演家として認められるべき存在なのだという部分が当協会設立時点からの主張なのです。(そうです、私達は実演家なのです。)

そして、それを公に認めてもらい、その地位に見合うしかるべき報酬(分配金)をうけることができるようにするため、私達は活動を行っているのです。

4. 実演家の権利

実演家の権利には「録音権・録画権」「放送権・有線放送権」「二次使用料を受ける権利」「貸与権」などがあります。このうち録音権・録画権はレコーディングエンジニアの場合、仕事そのものが録音ですから、仕事を受けた時点で自動的に許諾したことになります。そしてギャランティーが CD の複製・販売による権利使用料とみなされます。勿論この部分を印税化することも理論的には可能です。実際レコードにおけるメイン・アーティストは基本的に印税になっています。ただし、バック・ミュージシャンなどは印税でもらっているという話はあまり聞きませんので、実際問題としてはかなり難しいかも知れません。

また、放送権・有線放送権については今のところはおいておきますが、基本的には録音権・録画権と同じと考えて下さって結構です。ただし注意してほしいのは、この場合の放送権・有線放送権とは、放送番組の製作のための実演であって、既に CD 化された音源を放送で流すこと(この場合、二次使用となります)とは違うと言うことです。

さて、問題の二次使用料と貸与権です。普通、我々が権利を得たときにもらえると言われている報酬(分配金)は、この権利によるものです。具体的には、

  • 商業用レコードの二次使用料(放送や有線放送など)
  • 貸レコードの使用料
  • 私的録音補償金(デジタル録音機器やデジタル・オーディオ・テープ等の記録媒体価格から自動的に徴収されている売り上げ金の一部)

等があります。ではいったい幾ら分配される事になるのか…? この疑問に答えるのはかなり難しい問題です。それぞれの分配金は様々な方法で各楽曲の実演家に割り振られますが、この方法がまだ完全に確立していない点があります。例えば弦セクションの人とギタリストは同じ分配率でいいのか? 、私的録音補償金はどのようにして割り振るのか?、等です。そして、CD が売れたからと言っても二次使用が多いとは限らないということ等によります。

現時点での分配金は「たいした額にはならないだろう」と思われます。でも、それで良いのではないでしょうか?。CD の製作費がこれだけ押さえ込まれている中、レコーディングエンジニアが受け取るギャランティーはそれほど削られているとは思えません。つまりそこそこしか売れない CD に対しては、その報酬は「もう十分に支払われている」と思うのです。私達は自らを実演家と主張する以上、その作品の売れ行きに関してある程度の責任を負うべきだと思いますし、それを自覚することも実演家としての主張を続ける上で大切なことだと思っています。売れれば儲かる、売れなければそれなり…このごく当たり前の現実をしっかり受け入れることが大切なのではないのでしょうか。

そして何よりも私達レコーディングエンジニアがレコード製作の現場において、ミュージシャンと同じくらい大切な存在なのだということを公に認めてもらう事こそが重要だと思うのです。

5. これまでの動きと今後の見通し

元々レコーディングエンジニアが実演家であるという主張については JAPRS (社団法人・日本音楽スタジオ協会)の内部において検討されてきたものです。ここでは(社)日本芸能実演家団体協議会(芸団協・実演家の著作隣接権使用料徴収に関する総元締めの様な団体)をはじめ、日本シンセサイザープログラマー協会(JASPA)や日本作編曲家協会などの実演家団体などと、公式・非公式に会合を行い、ほぼ全ての団体から原則的には問題ないのではないかとの感触を得ました。

残るは芸団協に認めてもらい、我々の名前をデータとして登録してもらえば良いのですが、それでは芸団協に認知してもらうためにはどのようにすれば良いのでしょうか…? 意外なところに大きな壁がそそり立っていました。何か申請書類などを提出するだけで「はい、OKです!」という事ならまだ話は早いのですが、何しろ今まで認められていなかった権利を主張しようと言うのですから、そうそう簡単には事は進まないのです。

ただ、ここにひとつの参考例と考えられるケースがあります。シンセサイザープログラマーの例です。以前シンセサイザープログラマーが実演家として認められた時は、まず芸団協に集められたデータにシンセサイザープログラマーの名前がたくさん書かれていたという事実があり、そこから芸団協が調査に乗り出し、ついには実演家として認められ日本シンセサイザープログラマー協会が著作隣接権の分配業務を行うことになったのです。もちろんその陰には協会関係者の方々による多大な努力があった事は言うまでもないことです。シンセサイザープログラマーというレコーディングエンジニアとはある種、近親関係にある職種が実演家として認められたという事は、我々にとっても大きな励みとなると共に、その権利獲得のプロセスは非常に重要な示唆を我々に与えてくれます。

では具体的にはどうするべきか? まず我々はレコーディングエンジニアが集まってこの問題を検討する場が必要だと考えました。それが JAREC 設立趣旨のひとつなのです。最終的には JAREC でレコーディングエンジニアの著作隣接権に伴う分配業務を請け負いたいと考えています。

JAPRS で検討が始まってから、JAREC の設立までに6年の歳月が流れてしまいました。非常にゆっくりとした動きのようにも見えますが、物事にはタイミングというものがあります。ここまでは「タイミングを計っていた」という方が正解なのかもしれません。

そのタイミングが2年前にやってきました。芸団協の中に実演家著作隣接権センター(CPRA)がつくられ、それまで芸団協主導でやってきた著作隣接権の管理業務がアーティスト・実演家の団体にも十分な発言権が与えられるようになってきたのです。そしてこれまで芸団協の元に集まっていた各団体のうち、実演家の団体を中心として、ミュージック・ピープルズ・ネスト(MPN)という団体が新たに結成されました。そして MPN では今後の具体的な分配のあり方について検討を始めています。

私たち JAREC は、この一連の動きの中で産声を上げました。そして今は MPN に何らかの形で参加しようとして動いています。例えばインペグ(ミュージシャンのブッキング業務を請け負う組織)やディレクターらが書いていた「参加ミュージシャン・データ」をレコーディングエンジニアが書くようにし、そこに自らの名前を書いてゆく事でデータを残して行けないか? そして、それから正式に実演家として認めてもらえないか?、という事を考えています。今はこの MPN にどういう形で、いつ参加できるかが重要なポイントだと思っています。

6. 最後に

以上、ほとんど駆け足状態で今までの動きをまとめてみました。「ところで、一体いつになったら実演家として認められるのか?」「それで実演家になったら幾らぐらい分配されるのか?」皆さんの疑問はよくわかります。でも、もう少し待ってください。今が一番微妙な時なのです。時期については現時点では何ともいえませんし、回りの状況次第だとしか言えないのです。また分配金額については前にも述べたとおり「大した金額ではない」としか言えません。実演家として認めてもらうことを第一の目標として進んで行くことが大切なのではないでしょうか?

実際に実演家と認められるためには、今まで述べてきたこと以外にもたくさんの問題を解決していかなければなりません。例えば「社員契約レコーディングエンジニアの問題」「ミックスダウンとレコーディングをどの様に考えるか?」等です。そのためには、ひとつひとつ着実に問題を解決していくことが重要だと思うのです。

ご意見ご質問等は随時お受けしていますので、協会宛にご連絡ください。また何か動きがあれば WEB 等で報告して行くつもりです。今後共どうか暖かい気持ちで見守っていてください。お願いします。

JAREC 著作隣接権研究プロジェクト
浜田 純伸