SPECIAL
OUTLINE 概要
第3回座談会「ファイルネームについて part2」。
マスタリングエンジニアをゲストに迎え、ファイルネームについてご意見を伺いました。
ゲスト:安藤義彦氏(サウンドイン青山スタジオ)、上田佳子氏(キング関口台スタジオ)、田中龍一氏(ミキサーズラボ/ワーナーミュージック・マスタリング)
2019年8月29日収録
SECTION.1 MacとWindows間で起きる文字化け対策
吉田 保
前回に続き、どうすれば間違いのないファイル・ネームを作れるのか。今回は、マスタリング・エンジニアの視点から、ご意見をいただきたいと思います。
中村 文俊
最初に、私は前回おりませんでしたので、普段行っているマスタリング・エンジニアへ渡すファイル・ネームについてお話します。まず、リミッターでレベルを上げたものをクライアントに渡します。この音源は、クライアントに最終形をイメージしてもらうためのものです。最近、特にリミッターを抜いた音源を聴いてもらうと「地味だ」と言われるんですよ。でも、リミッターを入れた音源を、マスタリング・エンジニアに渡したら何もできません。そこで、本来のファイナル・ミックスを渡しています。この違いを、ファイル・ネームに書くようなことはありません。
千阪 邦彦
上田さんが普段使っているマスタリング・ツールは、SEQUOIAですか?
上田 佳子
はい。マスターの送りがWindowsのSEQUOIA。出しはMAGIX Samplitude、もちろんAvid ProToolsも使っていますが、それもWindows版です。DAコンバーターはPrism SoundのADA-8XR。ADコンバーターは、ディスコンになっていますがAntelopeのEclipse384です。
岡部 潔
システムのマスタークロックは?
上田 佳子
Eclipse384をマスターとしています。
田中 龍一
僕はMacのProTools出しのWaveLab受け。ProToolsのHD I/OでDAして、それを上田さんと同じくAntelope Eclipse384でADしてWaveLabで受けます。そして、WaveLabの帰りをAntelope Eclipse384でDAしてモニターしている環境です。
安藤 義彦
僕は基本的にApogeeのPSXスペシャル・エディションでDAしています。場合によってはProToolsのDigidesgn 192 I/Oも使っています。ADに関しては、ソースによってLavry EngineeringのAD122-96 MKIとAD122-96 MkIII、Apogeeなどをソースによって替えてADしています。
千阪 邦彦
レコーディング・エンジニアの皆さんはファイナル・ミックスしたマスターを、どのようにしてマスタリング・エンジニアに渡すのでしょうか。
上田 佳子
私が受け取るファイルは、ディレクターを経由していただく事が多いですね。ただ、私はWindowsなので、Macで書いたネームが文字化けしている事が多いんです。この状態で、ディレクターやアーティストが立ち会いに来て、「この曲の頭を出してください」と言われても「文字化けしていてわかりません」となってしまいます。
吉田 保
クライアントはMacだから、文字化けしているか気づいていないんだ。
上田 佳子
はい。そうならないように、事前に「ネームの頭にトラック番号だけでいいので書いてください」とお願いします。ネームの頭に数字があれば、文字化けしていても曲順はわかるし、ソートも掛けられるようになるので、作業効率がかなり変わるんです。また、いろいろなバージョンを作ってほしくて、“ヴォーカル・アップ”“コーラスに違いあり”といった全角文字で記入したら文字化けして読めません。それでも、文字数で判断したり、音源を聞いて判断していますが、この作業は大きな間違いに繋がりかねません。音楽業界はMacユーザーがほとんどですが、なるべくWindowsで文字化けが起きないよう半角英数でネームを書いてほしいのが本音です。
吉田 保
MacとWindowsの間で起きる文字化けは、なんとか回避できないのかな。
中村 文俊
現状では難しいですね。僕もMacユーザーですが、クライアントがWindowsかもしれないので、ネームは必ず半角。ネームが長すぎるのも、文字化けの原因の一つなので、なるべく13文字以内に収めて渡します。
上田 佳子
他にも“~”のような機種依存の文字が、文字化けの原因になります。特に濁点。これがあるとWAVと認識せずに、ファイル自体が読めなくなってしまう事もあります。アルバムCDなら曲数が少ないのでまだ良いのですが、サントラとなるとネーム整理だけで結構な手間になります。
吉田 保
僕もサントラは日本語で書いちゃう場合が多いかもしれない。
上田 佳子
文字化けしたとしても、ネームの頭に“01”“02”と通し番号があるだけで効率がまったく違います。他にもレコーディング・エンジニアにお願いしたいこととして、ネームの最後に曲順を付けないでほしいですね。そうすると、ファイルを並べ替えるソートがうまく働きません。
岡部 潔
マスタリングしている時期でも、曲順や曲名が決まっていないことが多いですよね。
上田 佳子
曲順が変わるのは仕方がありませんが、事前にディレクターに「ファイル番号を頭に書いて下さいませんか」と伝えれば、間違いが減ると思います。
吉田 保
Macユーザーも頭に通し番号を付けたほうが、わかりやすいかもしれないな。
中村 文俊
上田さんもおっしゃるように、制作途中で曲順が変わってしまう事は避けられません。でも、そこで間違いが起きないようにするには、ディレクターの協力が欠かせません。結局、音楽業界はMacユーザーが多いので、SEQUOIAもそうですがWindowsを使っている人の事まで考えが及ばないのかもしれない。
上田 佳子
他にも「OKテイクのフォルダを赤くしておきました」と言われても、Macじゃないので見れません(笑)。Windowsもフォルダの形や色を変えることはできますが、Macと互換性がないんです。
吉田 保
先日、ソニー・ミュージックスタジオで録ったとき、僕もマスタリング・エンジニアに「OKテイクの入っているフォルダは、赤くしておいたよ」と言ったかもしれない(笑)。
安藤 義彦
私はMacユーザーなので、受け取ったファイルやフォルダが、文字化けしている事はほとんどありません。また、クライアントから「配信に使うからまとめてアップしてほしい」と言われた事がありますが、その時、先方がWindowsかもしれないと考えて、文字化けには気を付けるようにしています。