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JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第2章

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2020.08.18
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OUTLINE 概要

JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第2章(全9章)

日 時:2020年2月21日(金)16:00~18:00
場 所:東放学園音響専門学校・渋谷校舎 3F3A1教室
講 師: 安藤 和宏氏/東洋大学法学部教授

内 容:1. 音楽近代化法の解説

    2.日米における音楽著作権の相違と留意点

    3.今後の動向について

SECTION.1 第2章

安藤:次にこれから本題へ入るにあたり、日本とアメリカの著作権に関する言葉を整理しましょう。まず、“原盤”という言葉ですが、アメリカでは“Sound Recording”あるいは“Master Recording”と言います。この“Sound Recording”を、日本では“録音物”と訳しているので、CDやレコードなどを思い浮べてしまいますが、われわれの業界用語でいうところの"原盤“を意味します。ここはご注意ください。
 次に“出版権”と“原盤権”です。簡単に言うと、音楽作品(楽曲)の著作権は“出版権”、サウンド・レコーディングの著作権は“原盤権”となります。音楽を使用するときには、“出版権”と“原盤権”の処理をしなければいけませんよ、ということです。また、日本では実演家やレコード製作者などに与えられる権利を“著作隣接権”と言いますが、アメリカには著作隣接権制度がありません。そのため、楽曲と原盤はどちらも著作権で保護されます。いずれにしても、アメリカでは、楽曲と原盤の権利処理をしないと、ダウンロード配信もできませんし、ストリーミング配信もできません。なお、音楽近代化法では原盤権の話は出てこないので、原盤の話はここで終わります。JARECのみなさんは、原盤権の方に興味があると思うんですけれど、音楽近代化法はどちらかと言うと出版権の話になります。

 次に、アメリカの著作権についてお話しします。まず、ソングライターが曲を書きます。ソングライターは、この曲の著作権を音楽出版社に譲渡します。音楽出版社は、その曲のプロモーションと管理をする。そして、作家には印税を払います。アメリカでは、音楽出版社と作家の取分比率は50:50が一般的です。
 音楽出版社は、著作権を譲り受けた曲を管理することも重要な仕事です。アメリカでは、 “録音権”、“演奏権”、“シンクロ権”、“出版権”の4つに分けて楽曲の著作権を管理します。
 これは著作権法の支分権の分け方と異なるのですが、音楽業界ではこのような区分で著作権を管理しています。これは結構大事なことなので、これら4つの権利をアメリカではどのように管理しているのかを詳しく話していきます。

 “録音権”は簡単ですよね。皆さんが一番身近なCDやレコード、テープといったメディアに録音する権利です。録音権については、音楽出版社が自分で管理するパターン(これを“自己管理”と言います)と、“ハリー・フォックス・エージェンシー(Harry Fox Agency)”というJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)のような著作権管理事業者に任せるパターンの2つがあります。
 自己管理の場合、レコード・レーベルが「楽曲をCDに収録したい」と言ってきたら「いいですよ。その代わりに使用料を払ってください」というように、音楽出版社とレコード・レーベルが直接交渉します。アメリカでは、楽曲の録音権を自己管理している音楽出版社がたくさんあります。「利用者から使用料を徴収して分配するのが音楽出版社の仕事でしょう」と思っている音楽出版社がたくさんある。ハリー・フォックスのような著作権管理事業者があるのに、音楽出版社に専門のスタッフがいて自己管理する。自己管理すると、ハリー・フォックスに支払う管理手数料が不要ですから、メリットはあります。ただ、その分、取引費用がかかる。

 もう1つのパターンは、スタッフが少なく、著作権使用料の徴収・分配に時間と労力、費用をかけられないという音楽出版社は、録音権の管理委託をハリー・フォックスにお願いします。ユーザーが多く、交渉費用のかかる楽曲を多く保有する音楽出版社は、ハリー・フォックスに管理委託するメリットは大きいかもしれません。つまり、預ける・預けないは費用対効果の問題に帰結します。
 日本の音楽出版社は効率性を重視して、著作権管理事業者のJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)か、NexTone(ネクストーン)に預けることがほとんどです。
 以上のように、ハリー・フォックスが録音権を管理している曲と、音楽出版社が自己管理している曲の2種類に分けることができます。この2つのパターンが音楽配信において面倒な事態を生じさせている1つの要因となっています。これについては、後程、詳しくご説明します。

 次は“演奏権”です。これは放送やコンサート、ライブ、レストランでの演奏のように、音楽を演奏や放送、インターネットによって公衆に伝達するときに働く権利です。利用者は無数にいますので、1人1人から著作権使用料を徴収するのは、音楽出版社でもできません。そこで、音楽出版社やソングライターは、著作権管理団体に演奏権の管理を任せます。このために著作権管理団体はあると言っても過言ではないのです。ソングライターは、著作権管理団体に「私はソングライターだから、使用料を徴収するような時間はないです」と言い、著作権管理団体は「私たちがあなたの代わりに集金してあげますよ」と言う。そして、著作権管理団体は、楽曲の利用者から著作権使用料を徴収し、手数料を引いた金額を権利者に分配します。著作権管理団体のおかげでソングライターは曲を作る時間ができるし、音楽出版社もほかの権利管理や楽曲のプロモーションに力を入れることができる。なので、演奏権についてはみんな管理団体に頼みます。面白いことに、アメリカにはASCAP(American Society of Composers, Authors and Publishers)、BMI(Broadcast Music, Inc.)、SESAC(Society of European Stage Authors and Composers)、GMR(Global Music Rights)と、大きな演奏権管理団体だけでも4つもあります。アメリカは独占禁止法がとても厳しいので、原則として1社が特定のビジネスを独占することは認められません。そのため、アメリカでは複数の演奏権管理団体が生まれました。

 日本は、もうすぐNexToneが演奏権使用料を徴収するようになると思いますが、今はJASRACだけです。日本はどちらかと言うと「効率性のためなら独占も仕方がないよね」と思う人が少なくないように思います。JASRACも長年にわたって例外的に法律で独占が認められていました。いずれにしても、音楽出版社やソングライターは演奏権を著作権管理団体に預けて「コンサート、ライブ、放送などから使用料を徴収してください」とお願いをします。

 残りは“シンクロ権”と“出版権”の2つです。シンクロ権は、映画、ドラマ、CM、テレビのように、音と映像を同期するときに働く権利です。日本ではこれらの権利もJASRACかNexToneに預けてしまうことが多いので、あまり馴染みがないかもしれませんが、海外では非常に重要な権利です。なぜ日本で重要視されていないかと言うと、昔あった仲介業務法という法律のせいで、長年にわたってJASRACが唯一の音楽著作権管理事業者だったので、音楽出版社がシンクロ権を直接行使できないという悪しき歴史があったからです。
 そのため、日本ではシンクロ権は馴染みのない権利になりましたが、外国ではシンクロ権は重要な権利で、音楽出版社が自己管理するのが原則です。これには理由があります。音楽と映像が同期すると、音楽に映像のイメージがつきます。良い映像には良いイメージがつき、悪い映像には悪いイメージがつきます。なので、音楽出版社やソングライターはシンクロの許諾をするときは、慎重に判断します。特にアメリカはアルコールやタバコが問題になっているので、そういうコマーシャルには使用許諾しないというアーティストもたくさんいます。
 シンクロ権は、一部の有名楽曲は別として、一般的にはシンクロの使用許諾のリクエストはあまり多くありません。この曲を映画で使いたい、ドラマに使いたい、CMに使いたいとユーザーはそれほど多くないんですね。私もいろんなソングライターの権利を管理していますが、有名なソングライターであっても、CMに使いたいというオファーは年に20件くらいです。なので、自分で十分に管理することができます。

 “出版権”は、楽曲を楽譜にする権利です。音楽出版社は元々、ソングライターから預かった楽曲を楽譜して販売していたわけです。なので、音楽出版社と呼ばれているのです。したがって、音楽出版社にとって出版権はとても大切な権利です。