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「LEWITT LCT1040」製品レビュー

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2022.06.08
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OUTLINE 概要

JAREC賛助会員社が取り扱う製品をJAREC会員エンジニアがレビューするという新企画がスタートしました。今回は、株式会社メディア・インテグレーション様のマイクロホン「LEWITT LCT1040」です。
イベントスペース LUSH HUBで男性ボーカルを録音し、その後座談会形式でレビューを行いました。

2022年4月6日(水)、渋谷LUSH HUB
参加者:北川照明、千阪邦彦、中村文俊、山根アツシ

SECTION.1 製品紹介

「新しいマイク」を求めて、世界的に著名な技術者や開発者との協力関係のもとに開発。
LCT 1040 マイクロフォンシステムは、新しいサウンドを求める多数のエンジニアから意見をフィードバックし数年間に渡る研究・分析・開発を経て誕生しました。

透明感のあるFET回路と4種のキャラクターを切り替え可能な真空管回路を組み合わせ、思い描いたサウンドを生み出します。出力を2系統搭載し、真空管とFETのバランスを後から調整も可能です。
また着脱可能なリモートコントローラーでマイクを触らずに別室からのサウンドメイクも行えます。

製品URL:https://www.minet.jp/brand/lewitt/lct-1040/

SECTION.2 review

千阪 邦彦

LCT 1040は、増幅部にFETを使ったモードと、4種(Clear、Warm、Dark、Saturated)の音質から選べる真空管モードがあります。今回は男性ヴォーカルにバラード調の曲を歌っていただきました。また、テストではリファレンスとしてNeumann U67も聴いています。皆さん、どのような感想をお持ちになったでしょうか。

中村 文俊

実は僕、LCT 1040が登場するまでフラッグシップだったLCT 940を持っているんですよ。買って4年くらい経つかな。それも真空管とFETを切り替えられるんですが、電源部とコントローラーが一緒になっていたので、ブースの中に置くしかなかったんです。それが分かれて、コントロールルームで調整できるようになったのは良いね。

山根 アツシ

このリモコン、全指向から双指向まで指向性が無段階に変わっていくけど、全指向やカーディオイドなど代表的なところにはクリックが付いているんですね。これはわかりやすい。

千阪 邦彦

資料に“新しいサウンドを求める、数多くのエンジニアからの意見をフィードバックして研究した”とありますね。エンジニアの意見が、てんこ盛りで作られているという感じなんですね。

メディア・インテグレーション・スタッフ

このマイクは開発の段階で、新しいサウンドを求める多数のエンジニアから意見をフィードバックし数年間に渡る研究・分析・開発を経て誕生しました。 エンジニアさんの好みの音が出るように、FETに加えて真空管も4種類の音質から選べるようになっています。また、FETと真空管の出力の割合も無段階で増減できます。誰にとっても最適な究極のマイクを作るのは非常に難しく、音色調整を可能にすることで様々なシーンに対応するマイクを誕生させました。

千阪 邦彦

確かに究極のマイクはないですね。我々エンジニアは、場面によっていろんなマイクから選択して扱っていますから。

北川 照明

そうだね。男性と女性でも違うし、曲調によってもマイクを替えるから、とても良いコンセプトだね。 特に良いなと思ったのがローカットフィルター。40Hzと80Hzは-12dB/octで、120Hzだけ-6dB/oct。40Hzや80Hzは、空調や暗騒音が出ている場合があるから、ズバッと切りたいじゃない。でも、120Hzは大事な帯域でもあるから、ガクッと減らすと困っちゃうんだよ。この設計はなかなか音楽的だと思ったね。

千阪 邦彦

それでは音質について、まずは全体的なマイクのキャラクターからお話いただけますか。

中村 文俊

どちらかというとAKG系で、それを現代風にしたというマイクですね。Neumann系の音ではない。

北川 照明

僕もそう思ったね。

山根 アツシ

僕もそう感じました。

北川 照明

我々の世代で真空管を使ったマイクというとNeumannのマイクを思い浮かべるけれど、そういう音を求めるとまったく違うと感じるだろうね。

山根 アツシ

AKG C12ほど高域に艶はない感じがするし、現代的な真空管マイクのBRAUNERやソニーのC-800Gの系統ともまたちょっと違う音です。

北川 照明

周波数帯域を目一杯広げて情報量満載っていう感じではなく、マイクの素性としては特に際立つ個性はないね。マイク本体に極端なキャラクターを持たせると、FETや真空管で音を調整するときに、変なクセになるかもしれないので後でコントロールしやすいように、個性を抑えていると感じた。

中村 文俊

LCT 1040の真空管回路は、もろに真空管らしい音というよりも、あっさりめの味付けと言えるかな。真空管マイクと言われなければ、わからないかもしれない。

千阪 邦彦

U67と比べていかがでしたか?

中村 文俊

Neumann系のマイクに共通した特徴は、日本語の押し出しに直結する中低域。そこはLCT 1040にはないんですが、真空管のWarmだけ中低域がちょっと充実していました。

北川 照明

ふわっと包み込まれるような独特の雰囲気がNeumann系のマイクにはあるよね。だから“U67とLCT 1040を比べてどうですか?”と聞かれても、天秤には掛け難い。

山根 アツシ

LCT 1040は、決められた時間とバジェットの中で、ある程度のクオリティのものを、きっちり収めるという意味ではすごく良いマイクだと思います。ただし、FETに関しては、ぱっと聴いたときにあれ? と思ったんです。

北川 照明

LCT 1040はFET回路と真空管回路の出力バランスを変えられるので、FETを50%、真空管を50%としてブレンドした音を聴いたけれど、FETの音の方が勝っていた。真空管を70%くらいに増やすと良いかなというバランスだね。

中村 文俊

そうそう。FETはけっこう攻めている音でした。

千阪 邦彦

攻めているというのは、どういう感じなんですか?

中村 文俊

真空管は、総じて温かい感じを多少持っているんですけど、FETはちょっと硬い方向の音です。またハイエンドは真空管の方があるね。FETは、その下の帯域が目立つんです。もしかしたらFETは、ある程度真空管とブレンドして使うような音質にしたという感じなのかな。

千阪 邦彦

硬い音を求めている人もいますからね。

中村 文俊

宅録で使うと良いかもしれない。どちらかと言えば、宅録はこもった音になりがちだからね。

千阪 邦彦

真空管回路は4種類のパターンから選べますが、特徴はどうでしたか? 資料ではClearに関して“バランスの良いフラットなサウンド”という風に書かれています。その通りですかね。

山根 アツシ

確かに周波数特性的には、フラットな感じです。

北川 照明

本当にプレーンで色付けは少ない。そういう意味で、素材としてなら良いのかもしれないけれど、ちょっと物足りなさも感じるかな。

千阪 邦彦

Warmは“スムースで心地の良いサウンド”とあります。

中村 文俊

これが一番良かった。

山根 アツシ

耳で感じているのに近い印象でした。

北川 照明

そうだね。ヴォーカルの肉声に近い。よく言う艶やかな声という感じだね。それを4つの中で一番感じたかな。バラードとかゆったりした曲には、神経質にならず包容力のある声質になって合っていると思う。

中村 文俊

Warmと言っても、“さしすせそ”の子音がちゃんとある。Clearで気になった耳に痛い帯域も無くなっています。

千阪 邦彦

今日歌っていただいた曲はバラード系でしたが、例えば元気のよいロックっぽい曲でもWarmを選びますか?

北川 照明

それだったら僕はSaturatedを選ぶ。

中村 文俊

うん。僕も押し出しがちゃんとあるSaturatedが良いと思う。

千阪 邦彦

Saturatedは“豊かなハーモニクスと、繊細なコンプレッション”。まさにそういう音だったと。

山根 アツシ

言葉からくるイメージほどサチッてはいないけれど、確かにコンプレッションが掛かっているような感じがあります。

北川 照明

うん。Saturatedだけコンプが入っているみたいな印象。そういう意味でもロックと合うと思う。

千阪 邦彦

ここで言っているコンプレッションとは、どんなコンプに近いですか? 例えば1176系とか。

山根 アツシ

真空管回路にレベルを突っ込んだときに感じるコンプ感かな。

中村 文俊

そう。真空管の持つ歪によるコンプレッションだね。

千阪 邦彦

最後はDark。“高域を押さえた、マイルドなサウンド”と謳っています。

中村 文俊

そうですね……。

北川 照明

帯域が狭いというか、抜けてこないというか。

山根 アツシ

ひょっとしたらリボンマイクを使うような音源に合うのかもしれない。あるいはClearで録ってみて硬いなと思ったときに、イコライザーでハイを下げるような使いかたとかね。

中村 文俊

こういうキャラクターもあると、あえて残したんでしょう。山根さんの言うように、確かにEQでカットするよりもナチュラルに変わるからね。

山根 アツシ

他にもDarkにFETを多めに足して、ちょっと違うキャラにするというのも面白そうです。

北川 照明

今日録ったのはヴォーカルだけだったけれど、ギターアンプやウッドベースなどを録ったら評価が変わるかもしれないね。

千阪 邦彦

LEWITTは元AKGのプロジェクトマネージャーが作ったブランド、そしてAKGのエンジニアが作ったオーストリアン・オーディオのOC818。いずれもAKGに関わっていた人が作ったわけですが、音にどんな違いがありますか?

山根 アツシ

マイクに対する考え方が違うところで、同じようにAKGから派生しているとも言えますよね。

中村 文俊

系統は一緒ですが、ニュアンス的にはOC818の方がよりAKG C414の系統を組んでいる気がします。対してこのLCT 1040は、AKG系とは違うキャラクターを持っていると思う。

千阪 邦彦

LCT 1040の音質キャラクターがある程度見えたので、次は録音の対象物は何が良いのかというお話をいただけますか。

中村 文俊

ちょっとした商業スタジオ的なところに1本あるといいですね。何を録るにしても重宝できそう。

山根 アツシ

宅録で録るような対象物なら、すべて対応できそうなイメージです。

千阪 邦彦

宅録は時間を掛けられますからね。いろんな調整ができるから、実験して自分にとって一番ポイントが良いところを探れる。そういう面白味はありますね。 先ほどヴォーカルで使うには、中低域がちょっと気になるというお話がありました。調整次第でそこもカバーできる感じですか?

山根 アツシ

できると思います。LCT 1040でコントロールするというよりも、マイクとの距離でコントロールできる範囲じゃないかな。

北川 照明

山根さんも言ったように、マイクに近づけばカバーできる範囲かもしれない。付属のウインド・スクリーンの性能がとても高いということだから、吹かれを気にしなくてもいいしね。

千阪 邦彦

どんなマイクプリと相性がいいと思われますか?

中村 文俊

個人的には、あまりハイファイ系のマイクプリじゃない方が良いと思います。APIやNEVE系かな。APIなら中域が張り出してくれそう。

山根 アツシ

マイクプリのキャラクターが付くと、また印象が変わりますからね。

北川 照明

僕はNEVE系とか、カチッとした音のヘッドアンプよりも、ちょっと太くて柔らかめの音がする物の方が相性は良いと思う。

中村 文俊

ハイファイ系のマイクプリを使うなら、WarmやDarkのようなしゃきっとしていない音と組み合わせたらちょうど良いバランスになるかもしれない。 真空管マイクって、結構押し出しの強いタイプが多いけれど、LCT 1040は真空管回路だけでは押し出しがちょっと弱く、クッとこないんですよ。そこでFETの音を混ぜてキャラ付けしてあげる。声質によりますけれど、そういう調整ができるのは良いなと思って聴いていました。相性の良い音楽ジャンルという見方をすると、僕は生楽器系よりも打ち込み系の音楽の方が得意だと思う。

千阪 邦彦

宅録で打ち込み系の楽曲で歌うヴォーカル録りに使えそうですね。

中村 文俊

良いと思いますよ。バラード系ならFETはオフにして、真空管だけでやるとか。 変な言い方ですけど、オールマイティには使えるんですよ。いろいろと調整できるからね。ただ選択肢としてオールマイティに使える分、なんていうのかな……価格の話になっちゃうけれど、LCT 1040の価格ゾーンである40万円から50万円前後のマイクは、それぞれ際立つキャラクターを持っています。その音が声や楽器にバチッとはまったらLCT 1040は勝てない。

北川 照明

そうだね。アーティストやエンジニアから“良いマイクはないですか?”と相談された時に、調整次第でどんなジャンルの音楽にも合うという点で薦められるマイクだと思うけれど、何かしらの個性を求めて選ぶとポリシーからして違ってくる。LCT 1040の良さは、いろんな場で使える、男性でも女性でも、ロック系でもバラード系でも、合格点が与えられる音で録れるところだから。

山根 アツシ

外に持ち出すマイクとして、良いかもしれない。音楽ライヴの配信とかを録るというときに荷物が少なくて済みそうです。

千阪 邦彦

皆さんのお話を聞いて、初めてレコーディングするアイドルに良いかもしれないと思いました。アイドルは歌以外の仕事も多くて忙しいから、収録時間もそんなに多くとれません。LCT 1040は録ってからでも、ある程度コントロールできるのでミックスがやりやすくなると思ったんです。 対象物との距離によってキャラクターが変わると思うのですが、LCT 1040はオン向きのマイクですか?

山根 アツシ

そう、オン向きだと思います。

中村 文俊

極端な言い方かもしれませんが、最近のマイクはほとんどがオン向き。オフで使えるマイクは、ほぼないと言ってもいいくらい。それに加えて、ヴィンテージ・マイクを基にしたクローン系のマイクがあるじゃないですか。そういうマイクは、オンで使うとヴィンテージ・マイクとキャラクターがよく似ているんですよ。でも、ちょっとオフにすると、途端にオリジナルの方が勝つ。今日、テスト収録しているときに、手を叩いてオフのかぶりを聴いていたんですが、FETはオンマイクを意識した音で、真空管回路の方は、真空管を使っている割にオフがちょっと苦手だと思いました。

千阪 邦彦

今回のテストは単一指向性だけでしたが、LCT 1040の特徴の一つ、連続可変の指向性についてお話いただけますか?

中村 文俊

単一指向で録ったけれど、一般的な単一指向性のマイクよりもちょっと広めに感じる。ヴォーカルだったら、もう少し狭めた超指向性にするとだいぶ印象が変わるだろうなと思って聴いていました。

北川 照明

どんな音になるか聴いていないからわからないれど、指向性をコントロールできるマイクのほとんどは、単一指向、双指向、全指向から選ぶようになっています。LCT 1040は、その間の指向性で録ることができるから、指向性を対象物に合わせられる。この面も面白いところだね。

山根 アツシ

LEWITTって、安いけれどクオリティが高いというイメージなんですよ。音も素直だし、比較的オールマイティに扱えるマイクが多い。僕もペンシルタイプのマイクをタム用として持っています。

中村 文俊

僕も持っているけれど、個性はないけれど扱いやすいマイクという印象です。

山根 アツシ

LCT 1040は40万円を超えていて、価格的に攻めたマイクを出してきたなと思ったんです。

千阪 邦彦

同じ価格帯の競合相手は、Neumann U87やM149などですね。歴史のあるマイクが、結構同じ価格帯です。

中村 文俊

正直に言うと、ちょっと値段が高いと感じます。

北川 照明

マイクは使い道を考えれば、なるべく同じものを2本欲しいからね。

山根 アツシ

僕もそう思います。ヴィンテージのクローン系マイクでも、評価の高いのは大体30万円から50万円のゾーンですが、LCT 1040は調整しだいでキャラクターを変えられる万能タイプは他のマイクにはない特徴なので、非常に面白い存在だと思う。僕たちは、普段こういうキャラクターの音が欲しいなと考えながらマイクを選びますが、LCT 1040は買ってから個性を作り出していくマイクと言えそうです。

北川 照明

僕らはスタジオで仕事をするから、簡単に“Neumann系のヴィンテージ・マイクを使っているよ”と言えるけれど、個人で持つマイクの1本としてU87を買いなさい、とはなかなか言えない。もちろん良いマイクなんだけど、保管も含めてデリケートなので、色々な環境の中で使うとなるとNeumannは薦められない。そう考えると、LCT 1040は、いろいろな人にお薦めできるマイクと言えます。

千阪 邦彦

ありがとうございました。

SECTION.3 問い合わせ先

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