SPECIAL
TITLE タイトル
OUTLINE 概要
2023年12月11日(月)、LUSH HUBにおいて「第2回JARECヘッドホン試聴会」を開催いたしました。
各社お持ちいただいたヘッドホンの説明と、質疑応答の様子を掲載いたします。
エンジニアならではの掘り下げた話もあり、大変興味深い内容となっております。是非ご覧ください。
SECTION.1 参加企業および製品サイト
ソニー(株)
https://www.sony.jp/headphone/
(株)メディア・インテグレーション
https://www.minet.jp/brand/focal/top/
アベンドートインターナショナル(同)
https://abendrot-int.co.jp/olloaudio/
(株)オーディオブレインズ
https://beyerdynamic.co.jp/product_category/headphone/
ゼンハイザージャパン(株)
https://www.sennheiser.com/ja-jp/catalog/products/headphones
https://www.neumann.com/ja-jp/products/headphones/
ソニックエージェンシー(株)
https://www.adam-audio.jp/headphones-2
(株)PHONON
https://phonon-inc.com/products/
(株)ヤマハミュージックジャパン
https://jp.yamaha.com/products/proaudio/headphones/index.html
SECTION.2 各社製品説明
Chester
ヘッドホン試聴会は、今回で第2回。今回は前回よりもたくさんのメーカー・輸入代理店さんに来ていただいております。まずは、みなさんに各ヘッドホンについて説明していただき、それから試聴に移ります。
ソニー株式会社
今回はモニター・ヘッドホンとしては、弊社初の背面開放型となるMDR-MV1をはじめ、MDR-M1ST、MDR-CD900ST、そして、主に海外を中心に販売するMDR-7506の4モデルをお持ちしました。MDR-MV1は、立体音響の制作で空間の位置関係のわかりやすさを目指しました。もちろん、2chの音源チェックに使っていただけるようなバランスを持ったヘッドホンになっています。オープン型は比較的低域の量感を出すのが難しいのですが、ドライバー・ユニットの工夫で低音をしっかり出しつつも、中高域のフラットな伸びといったところをポイントとしていています。
メディア・インテグレーション FOCAL PROFESSIONAL
弊社はCLEAR MG PROとListen Proを用意しました。CLEAR MG PROは、オープン型で、コーン素材はマグネシウムを使用しています。このヘッドホンは、モニター・スピーカーをイメージして聴いていただくと、26万円という意味をわかっていただけると思います。大きい音でモニター・スピーカーを鳴らせないときに、その代わりになると想定しています。
Listen Proは密閉型です。ヘッドバンドに形状記憶プラスチックを使用しておりまして、ねじっても壊れにくくなっています。また、セミハードケースもついており、フィールド・レコーディングなどでご使用されても破損しにくいヘッドホンです。
アベンドートインターナショナル OLLO Audio
OLLO(オーロ)AudioのS5XとS4X、S4Rをお持ちしました。最新のS5Xはステレオとイマーシブのミキシングを行うために作られたヘッドホンです。ミックス用ヘッドホンで大切なのは、脚色のなさ、低音の正確性、基音の帯域がよく見えること。S5Xは、DSPを使わずに圧倒的にフラットな特性を実現しているのが特徴です。
S5Xに先んじてミックス用ヘッドホンとして世界的に大ヒットしたのが、姉妹機であるS4X(オープン型)です。それを密閉型にし、レコーディング・モニターを想定したモデルがS4Rです。S4Rはハウジング内での反射を目立たなくするため、S4Xとわずかにチューニングに違いがあります。
OLLOのラインナップにはさらにフラットに扱えるWaves社とのコラボレーションによるオプションが予定されています。各個体別に合わせたキャリブレーションをソフトウェアによって補正するというものです。
オーディオブレインズ beyerdynamic
beyerdynamicは今年100周年を迎えるブランドで、昔から様々なエンジニア、アーティストに支持されてきました。その充実したラインナップから5機種をご用意しました。
全世界でスタジオや放送局など、いろんな現場で使用されている定番のDT 770 PRO(密閉型)。原音忠実なサウンドですが、それに加えて装着感に優れ、パーツ取替えも簡単に行えるヘッドホンになります。
そして、DT 990 PRO(背面開放型)と、サンプリングやモバイル化など、現代的なプロダクションの変化に適応するよう新開発されたDT900 PRO X。さらに上位モデルとなるDT 1770 PROとDT 1990 PROは、1テスラという強力な磁気回路を持つ独自開発のTeslaドライバーを搭載。電気回路だけでは到達できない高解像度なサウンドを提供します。
最後にモニター・ヘッドホンではなく音楽鑑賞用のヘッドホンT1(3rd Generation)をお持ちしました。これは、音楽鑑賞用ですが、背面開放型ハイエンドモデルとなります。
ゼンハイザージャパン SENNHEISER
HD 280 PRO MK2(密閉型)と、HD 400 PRO(背面開放型)をお持ちしました。SENNHEISERのモニター・ヘッドホンは、海外では非常に人気がありますが、日本ではまだまだ知られていないと思います。HD 280 PRO MK2は、フラットな音質というところもあって、ミキシングや収録、それからDJで使われる方もいらっしゃいます。もう1つのHD 400 PROは、プロオーディオ向けとして初の背面開放型ヘッドホンです。
すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、弊社はプロオーディオ部門とコンシューマー部門とで分社化いたしました。その時、SENNHEISERの背面開放型は、すべてコンシューマー・モデルでしたので、プロオーディオ向けではHD 400 PROだけが背面開放型です(2023年12月時点)。
ゼンハイザージャパン NEUMANN
NEUMANNブランドは、密閉型NDH 20、背面開放型NDH 30をお持ちしました。現在、NEUMANNブランドとしてはこの2機種しかありません。NEUMANNは、モニター・スピーカーを開発していますが、音の正確性と定位の良さというところに定評があり、そのポリシーを踏襲したヘッドホンです。密閉型は皆さんもご存知の通り、遮音性が非常に高いので、使う場所を選びません。ヘッドホンを使ってミックスするのが得意じゃない、ヘッドホンでのミックスを考えていらっしゃる方にぜひ使っていただきたいモデルです。
ソニックエージェンシー ADAM Audio
ADAM Audioは、モニター・スピーカーを主力としている会社で、ヘッドホンはこのSP-5 STUDIO PRO HEADPHONESしかラインナップにありません。
このSP-5は、Ultrasoneの特許技術S-LOGIC Plusを採用した共同開発商品です。S-LOGIC Plusを簡単にご紹介すると、一般的なダイヤフラムの配置箇所をずらすことにより、直接鼓膜に届けるのではなく、外耳に音を反射させて聴くという自然環境と同じような聴こえ方を再現する設計です。
またADAM Audioのスピーカー同様、広い周波数特性(8Hz~38kHz)と、音の立ち上がりに優れた応答特性を実現し、歪みは最小限に抑えられています。重量290gと軽量で、装着性も優れたヘッドホンになっています。
SP-5はモバイル機器による再生環境も考えておりまして、頑丈なケースの付属はもちろん、かなり丈夫に作られております。
PHONON
今回は3種類お持ちしました。1つはラージ・モニターのように使えることを目指して開発したSMB-01L。フリーエッジの50mmドライバーを使用しており、周波数特性はハイレゾ帯域まで伸びています。このヘッドホンは付属しているプレートを使う事で、密閉型をセミオープン型に変更できます。これは、スタジオによって低域処理が異なりますし、またクラブミュージック制作に関わる人から、反射の多いクラブでも迫力のある低域か調べたいという意見がございましたので、切り替えられるようにしました。イヤーパッドはシープスキンで結構厚みがあります。この厚みによってスピーカーに近いような距離感、特にラージ・モニターのような距離感が出るよう作っています。
SMB-02Gはフリーエッジ40mmドライバーを使っており、どちらかというとニアフィールド・モニターのような音を目指しました。
4400は、いろいろな音響環境でお仕事される方、移動中に聴く時など、そしてDJの方など、小さいながらスピーカー・ライクなパワフルなサウンドを実現しています。
ヤマハミュージックジャパン
HPH-MTシリーズから、フラッグシップモデルのHPH-MT8を筆頭に、HPH-MT7、HPH-MT5をご用意しました。ヤマハと言えばNS-10M、HSシリーズ、MSPシリーズなどのモニター・スピーカーを作ってきたメーカーとして、フラットな音作りと高い音圧を持つヘッドホンを製造しております。堅牢性を確保しながら、肉厚のイヤーパッドを使うことで、遮音性もかなり高めており、スタジオ・モニター、SR、ライブレコーディング、DJで使っている方もいらっしゃいます。
HPH-MT8とHPH-MT5は折りたたみ機構があり、より可搬性に優れています。カラーバリエーションとしてはHPH-MT8は黒のみ、HPH-MT7とHPH-MT5は黒と白の2色展開となっています。音に関しては、それぞれ良いポイントがありますので、ぜひ聴き比べをしていただければと思います。
Chester
みなさんのプレゼンを終えたところで、私から1つ質問があります。 弊社、山麓丸スタジオでは、立体音響作品も制作しているのですが、立体音響を聴くならこれが良いよ、という推しのヘッドホンを教えていただけますか? ソニーさんは、立体音響再生をメインに考えたMDR-MV1をお持ちいただきましたし、フォーカルはCLEAR MG PRO、OLLO AudioはS5X、ADAM AudioはSP-5だと思いますが、他のメーカーや代理店さんは何が良いでしょうか?
オーディオブレインズ
DT 1990 PROですね。
ゼンハイザージャパン
SENNHEISERはHD 400 PRO、NEUMANNはオープン型NDH 30でお願いします。
PHONON
SMB-01Lです。
ヤマハ
弊社はHPH-MT8です。
Chester
ありがとうございました。試聴ですが、第1部はステレオを中心に集められたヘッドホンを自由に聴き、第2部は立体音響のソースで各メーカーおススメのヘッドホンを聴いていただきます。
SECTION.3 質疑応答
Chester
試聴を終えましたので、ここからメーカー・代理店さんへの質問コーナーに移りたいと思います。
山口 照雄
今日はたくさんのヘッドホンを聴かせていただき、とても嬉しい試聴会でした。ただ、これだけの数の製品を聴いて感じたのは、それぞれどういうコンセプトで作られたのか、という事です。 僕らエンジニアは、ミックスでヘッドホンを使うことがメインです。一般的には「良い音」が買う決め手なのでしょうが、「ミックスに向いている」という方がより重要なんです。「良い音だけど、これじゃミックスできないな」と思うようなものが、今回の中にも確かにありました。また、人それぞれどんな場面で使う事を考えているかでも、評価がまったく変わるんですよね。 例えば、自宅のスピーカーで聴くと、どうしてもポップノイズやリップノイズが分かりにくい。そのときに、使えるヘッドホンが仕事用なんですよ。良い音である以前に、そういう使い方をすることを知って欲しいですね。ノイズチェックしやすいヘッドホンも求めているんです。
Chester
それは私も各社にぜひお聞きしたいですね。どういうポリシーがあるのか、お聞かせ願えますか?
ヤマハミュージックジャパン
ヤマハでは「原音忠実でフラットな音作り」になるよう設計をしています。ミックス用途はもちろんですが、イヤーパッドが分厚くて、耳にフィットするような形になっているので音漏れしにくい構造になっています。そのため、音漏れにシビアなレコーディングでの返しや、ライブミックスのモニタリングでも使える製品になっています。
Chester
ヤマハさんといえばNS-10Mですよね。いまでもスタジオの多くに置いてありますが、正直に言って他に比べて低音がそんなに出ていない。発売当時はそれで良かったのかなと思いますけれど、いまは何を中心にチューニングしているのでしょうか。
ヤマハミュージックジャパン
NS-10Mもモニター・ヘッドホンに関しても、あくまで全帯域に対しフラットになるように設計していますので、低域に対して積極的なアプローチをしているわけではありません。たとえば、ダンス・ミュージックを作られる方にとっては、ある程度もの足りないとは思います。しかし、音楽ジャンルはそれだけではありません。ストリングスのアレンジをする方や、ゲーム音楽を作られる方には好評だったりします。また、音像が近めですので、ミックスの粗探しなどの用途にもお使いいただけます。
Chester
壊れたときのアフターケアについても教えてくださいますか?
ヤマハミュージックジャパン
イヤーパッドは取り寄せて、ご自身で交換できるようになっています。ユニットに関しては、送っていただいての修理になりますが、国内メーカーですので迅速に対応させていただきます。
Chester
次はPHONONさん。僕は聴いていて、お持ちいただいた各種それぞれに個性があると感じたんです。
PHONON
PHONONは、ヘッドホン専門メーカーとして14年、製品開発は私が行っています。いまも音楽制作を並行していまして、マスタリングも行っています。そうした制作作業でスピーカーを鳴らしていて、ヘッドホンに切り替え、またスピーカーに戻す。この戻した時に違和感があって、頭を切り替えるのに時間が掛かる経験をずっとしてきたんですね。その差が出ないように、スムーズに頭の切替えできることを、第一に考えて開発しています。 そして、ヘッドホンにもトレンドみたいなものがあると思うんです。SMB-02Gの前身SMB-02はPET素材を使っていましたが、SMB-01Lではバイオセルフィルム素材のフリーエッジ、SMB-02Gはノーメックス(Nomex)というFOCALもスピーカーで使っている材料を採用しました。そうしたモニター・スピーカーのトレンドも意識して開発しています。 修理に関しては、朝最初の仕事は修理ですので(笑)。また、イヤーパッドとケーブルは単品で販売しております。
Chester
PHONONさんのヘッドホンは、個人的に使っているんですが、今回、他のモデルも聴いてみて、だいぶ音が変わってきていると思ったのです。
PHONON
いまモニター・スピーカーは、ものすごい低域が伸びていて、特性もフラットに近いものが増えています。ヘッドホンも同様で、SMB-01Lは100kHzにサイン波が出ていると測定会社さんに驚かれました。聴いた印象としては低域寄りと受けられるのかもしれませんが、高域に関しても帯域がものすごく広がっています。
ソニックエージェンシー
弊社のヘッドホン開発はADAM Audioのスタジオ・モニターの音質を、そのままモバイル環境でも欲しいという事を開発目標に据えているところが他メーカーとの相違点だと思います。Ultrasoneとの共同開発で、ADAM Audioのスピーカーの音を忠実に再現すること目標としてチューニングしていますので、ADAM Audioスピーカーのファンから、非常に高い評価を受けています。 メーカーサポートですが、ユーザー登録をすれば5年間無償サポートを受けられます。5年以内に故障した場合、基本的には無償交換させていただきます。ただし、ユーザー登録しない場合は2年。もちろん5年過ぎたものに対してもパーツがある限り、修理対応いたします。イヤーパッドは、他社同様交換パーツがあります。
山口 照雄
ADAM Audioのスピーカーはよく見かけるんですが、環境によって大きな音を出せないからヘッドホンでミックスやチェックをやるわけです。SP-5は、それに全然合わないと思ったんです。だから、コンセプトが違うのかなと思ったら、ADAM Audioのスピーカーと同じような音だと。
ソニックエージェンシー
ヘッドホンのラインナップはまだ出てきたばかりで、いまはADAM Audioのスピーカーありき、しかもUltrasoneと共同開発したのが本機になります。そして、現在ADAM Audioの開発優先順位では、モバイル環境や立体音響の製品が急務になっていますので、ADAM Audioの公式アナウンスでも、エンジニアが満足するようなヘッドホンを今後開発していきたいと言っています。ちなみにADAM Audioのモニター・スピーカーをご試聴していただいているようですが、けっこう音楽を選ぶと聞きますので、いろんな音源で聞いていただいたら印象が変わるかもしれません。
ゼンハイザージャパン
SENNHEISERブランドは「Future of Audio」が開発コンセプトです。現在進行形の開発は、立体音響関連で、それに対応したヘッドホンとしてHD 400 PROを開発しました。もう一つ、昨今、いろんな制作環境で音作りする方がいるので、なるべくどの環境下でも同じように聴こえるヘッドホンを提供したいと考えています。 弊社のヘッドホンがどんな用途に向いているのかという点ですが、例えばロングセラーのHD 25は、いまはDJ用途と言われることが多いのですが、元々は放送局のモニター・ヘッドホンでした。それが低域再現能力の高さなどが評価されて「DJにも向いている」という言い方をするようになったんですね。だから、ヘッドホンの使われ方は、その時々によって変わっていくという考えを持っています。 NEUMANNは、ADAM Audioさんと同じようにNEUMANNのモニター・スピーカーが基になっています。いまスピーカーは5モデルありまして、大きさによって低域再現能力が違います。そして、部屋のサイズに併せてスピーカー・サイズを選んでくださいと話して、NEUMANN製品の良さを伝えています。 これはヘッドホンでも似たような考えで、背面開放型ならNDH 30、密閉型ならNDH 20というシンプルなラインナップになっているんですね。ですから、MkIIが出てくるかもしれませんが、目指している音は変化しないでしょうね。だから、この2モデルは、完全にモニター用ヘッドホンとしてお聴きください。 メインテナンスに関してですが、保証期間はSENNHEISER、NEUMANNともにヘッドホンは2年です。SENNHEISERに関しては、ケーブルとイヤーパッド、ヘッドバンドといった消耗品はすぐに交換できます。それ以外の故障に関しては、全モデル本体交換が基本になりますが、高価なモデルに関しては、ドライバーの交換もしています。NEUMANNについても、アフターケアについては同じになると思います。
オーディオブレインズ
beyerdynamicは、オーディオマニア向けの製品も出していまして、それらはけっこう積極的にチューニングしています。今回、出品するにあたり、コンシューマー系の担当者に話を聞いたところ、人間は音を聞くとき、ヘッドホンの様に横から来る音は、高周波が強く聞こえ、スピーカーの様に前から来る音は、高域がちょっとロールオフされて落ち着いて聞こえるのだそうです。そこで、前にあるオーケストラの音を真横から聞いたときにどうなるかを狙った上で、積極的に調整しています。 対して、モニター向けヘッドホンは、創立してから100年間様々なモニター・ヘッドホンを作ってきました。テレビや映画の収録スタジオ用のヘッドセットに始まり、現場が求めるものをずっと作ってきたという歴史があります。ですから、どういうコンセプトなら音が作りやすいか、制作しやすいかというユーザーのフィードバックを反映して作り続けています。例えば歌録りには音漏れしないモデル、音場が広がる音もきちんと聴こえるミックス向けモデルなど、それぞれにコンセプトを持っています。 保守性に関しては、ヘッドホンはイヤーパッドとヘッドバンドがボロボロになりますよね。この2点を変えれば新品みたいになります。どちらもボタンで取り付けてあるだけなので簡単に取り替えられます。金属部分に関しては、バネ鋼(バネを作る際に使用される鋼の種類)という強い金属を使っています。ドライバーもハンダ付けできれば自分で交換することができます。ハンダ付けができないお客様は、弊社の修理センターが預かり、技術料9,000円+パーツ代で修理させていただきます。自分でも修理できる。そこはモニター・ヘッドホンで求められるところですよね。これがbeyerdynamicの強みの1つになります。
山口 照雄
beyerdynamicの型番が、T1とT5と名称が大きく変わりましたね。
オーディオブレインズ
T1とT5はコンシューマー向けです。T1とT5はドライバーの向きを傾けており、音が前から出ているようなチューニングを施しているのですが、それを気に入っているエンジニアさんもいらっしゃいます。
山口 照雄
私は普段DT 770 PROを使っているんだけど、後継モデルのDT 1770 PROを聴いたとき、違いがあまりわからなかった。何が違うのですか?
オーディオブレインズ
型番の先頭に1が付いているモデルは、磁束密度1テスラという強い磁力を持つTeslaドライバーを使って効率を高めています。これにより微細な電気信号にも追従できるようになり、解像度も大幅に向上しました。 また、モニター・ヘッドホンは、製品によってインピーダンスが変わります。卓に挿すことを想定した250Ω。ブース内での使用には80Ω。あとは48Ω、32Ωなどもあります。
山口 照雄
僕は250Ωを使っているんだけど、それじゃ音量が小さいからボリュームを上げて使っています。それでも歪みが少ない。だから、ミックス・チェックがとても行いやすいんです。使い勝手を考えて作ったんだ。
オーディオブレインズ
はい。卓に挿すときは250Ωで十分な音量を出せるんですけれど、ブースのディストリビューターは250Ωで十分な音量を出せるかと言ったら、ちょっと厳しい。それなら抵抗値を下げなきゃならないよねと。beyerdynamicは100年も歴史があるじゃないですか。その中で電話機を作っていた時期があるんです。電話機はボルテージを高くしてノイズを消していたので、その流れで600Ωとか1,200Ωといったヘッドホンも作っていました。だからインピーダンスを低くするというのも段階的だったのです
アベンドートインターナショナル
OLLO Audioのヘッドホンは、リスニング向けはありません。一般の人がどんな音が好きか、いまトレンドの音は何かではなく、サウンド・エンジニアが、どうだったらミックスに使いやすいのか、そのフィードバックを元に開発されています。サウンド・プロセッシングの反応とミックスの上がりを聴くためのもので、それ以外の用途は何もありません。専門メーカーとして、この開発姿勢は現在も続いています。 また、現在販売されているS4Xは、バージョン1.2となり、サウンド・エンジニア達のフィードバックを元に修正を入れた集大成になっています。こうした開発体制は、後にも先にも例のない、まさにサウンド・エンジニア専用のヘッドホン・メーカーであると思います。 各製品のコンセプトは、S4Xはステレオ・ミキシング用。音色、基音、リズムの核になる帯域が非常によく見える。ここは特にスピーカー環境で、部屋の反射などで正確に見えにくいところなので、それをフォーカスできて即戦力になるところが売りです。S5Xは、ステレオから立体音響のミックスまでを見据えて作られたモデルになります。 実際にOLLO Audioのユーザーにお話をうかがうと、これだけでミックスをすべてやりますという人はあまり見かけたことがありません。まずは自身が好むキャラクターのスピーカーやヘッドホンでミックスを作って、OLLO Audioはチェック用として使う。特に低域はスピード、レスポンスが揃ってないとチェックできませんよね。そういった意味で、S5Xは20Hzまで物理的に作ったモニター・ツールとしては考えられないほどフラットです。ミックスを終え、マスタリングなどに納品する前に、これで確認しておけばOKというリファレンスがS5Xの立ち位置です。さらにS5Xは、OLLO Audioが立体音響に対して何年も前から開発してきたモデルでもあって、ただフラットなだけでなくDolbyの認証スタジオの音と相違が出ないように最終チューニングをしていることから、立体音響作品のバイノーラルチェックのツールとしても大変信頼性が高いものになっています。 そして、OLLO Audioのヘッドホンには、Waves社とのコラボレーションで完成した新オプションが追加されます。それは各個体別に発行されている特性シートを元にしてキャリブレーション・データを作り、これまでにない完璧なフラット特性を実現するというものです。 修理に関しては、サウンド・エンジニアの仕事で使うものとして出していますから、各部品はすべて補修部品として販売しています。とくに消耗品であるイヤーパッドやケーブルは国内で常備しています。保証は1年間。ケーブルに関しては、初期不良を考えて3ヶ月ぐらいは無償で交換をできるようにしています。保証後の修理についてもサポートしていく体制を整えています。
山口 照雄
ケーブルも含めての音作りをやっているんですか?
アベンドートインターナショナル
もちろんです。厳密に設計していますから、リケーブルはしない方がいいです。ただOLLO Audio自身が、強度やレスポンスなどの特性に優れたケーブルを開発したときに、バージョンアップという形で提供しています。
宇佐美 航(オーディオブレインズ)
OLLO Audioさんのヘッドホンが大好きなのですが、天然素材を使うと音質にばらつきが出るということを耳にします。そこはうまく調整できているんですか?
アベンドートインターナショナル
そもそも厳密に製造しようとしても、個体差は必ず起きます。それはスピーカー部品も同じです。ですから、OLLO Audioは、最終的に特性シートを出して、個体差を現しているのです。イヤーカップも振動しますからね。その素材として木材を使うのは、工業製品として難しい選択です。木材を使う事で、音質面だけではなく持った時の感触も考慮して選んでいると思います。
メディア・インテグレーション
FOCALは、元々はスピーカーユニット・メーカーでした。それがカーオーディオ、コンシューマー、プロフェッショナル、そして、シーリング・スピーカーと次々に市場参入しておりまして、プロ向けの製品を出すのはわりと最近の話です。その中で一貫しているポリシーは、限りなく原音に忠実で歪みが少ないサウンド。それを、どのカテゴリーでも追求しています。 今回ご用意したListen PROとCLEAR MG PROには、リスニング・ラインにListenとCLEAR MGがありまして、PROと付くプロ向け商品は、味付けのないフラットなチューニングをしており、リスニング・ラインとは別チューニングになっています。 CLEAR MG PROは、振動板にマグネシウムを採用しているのが特徴です。これは技術的にとても難しいのですが、マグネシウム単体にしたことで、より歪みの少ないサウンドを実現しました。その結果が、ミックス向きと言われるところに響いているのだと思っています。また、歪みが少ないことのメリットとして、長時間聴き続けても疲れにくく、また原音以外、余分な音が鳴らないのでより正確なミキシングができます。 修理については1年保証で、すべてのパーツを持っておりますので、国内で修理可能です。
ソニー
やはりソニーと言えばMDR-CD900STのイメージが強いと思いますが、その他にもモニター用ヘッドホンを開発しております。2019年にMDR-M1STという密閉型、2023年5月にMDR-MV1という背面開放型のヘッドホンを発売しました。 ソニーはそれぞれ用途を分けて開発してきたので、わかりやすいように“ソニー・プロフェッショナル・オーディオ”というサイトを作っております。それに基づいてご説明しますと、MDR-CD900STは、レコーディング時の演奏者向けに作られたモニター。MDR-M1STは、ハイレゾが広まっていく中で、ハイレゾ音源制作に対応した新しいモニター。よくMDR-M1STは、MDR-CD900STの置き換えというイメージで捉えられていることがあるのですが、使われる現場が異なることを想定しています。ですから、MDR-M1STは、進化型というよりも、用途を新たにしたヘッドホンと考えていただければと思います。 そして、2023年に発売したMDR-MV1は、立体音響制作を中心とした空間表現を必要とするミックス作業向け。もちろん使われ方を考えると2chのミックスで使う方が多いだろうということで、ステレオ、立体音響双方の制作現場の声を聞きながら開発したものになります。
Chester
国内でMDR-900STは、必ずと言ってよいほどスタジオにはあるヘッドホンですが、海外ではどういう評価を得ているんですか?
ソニー
実はMDR-CD900STは日本国内だけで販売しているヘッドホンで、海外では一般的に青帯と呼ばれているMDR-7506が広く使われています。音質は別ものですが、MDR-7506とMDR-CD900STは、ベースとなったモデルが同じです。そうして1989年にソニー・ミュージックスタジオのレコーディング・エンジニアと音の作り込みをして生まれたのが、MDR-CD900STになります。
山口 照雄
海外はMDR-7506、日本はMDR-CD900STと型番が違うだけで、同じものだと思っていたけれど違うんだね。
Chester
MDR-M1STとMDR-MV1は、ケーブルを取り換えられるようになっていますね。
ソニー
そうですね。どちらもケーブル交換可能になっており、そこに着目してサードパーティがいろいろなケーブルを発売しております。 メインテナンスですが、本日4機種用意いたしましたが、それぞれに販路が社内で別々になっていまして、それぞれサービスの対応窓口が違います。販売店など外部で修理対応してくださる会社を通して対応する形になります。
小長谷 成希
MDR-MV1の密閉型が出る予定はありますか?
ソニー
まず密閉型のMDR-M1ST、背面開放型のMDR-MV1と出したので、今のところ、MDR-MV1の密閉型という発想の商品は予定されていないと考えていただければと思います。
小長谷 成希
ライブRECの時など、開放型が使えない現場でも使いたいのです。
ソニー
そういう方は、まずMDR-M1STを試していただきたいのですが、ご意見として受け止めました。ありがとうございます。
山口 照雄
今回の試聴会では、2mixと立体音響で、ヘッドホンの評価がまったく変わるのが面白かった。ヘッドホンの使用理由は、低音感だとか、ポップノイズとリップノイズを地獄聴きするような時に使うわけだけど、立体音響制作を視野に入れたヘッドホンは、f特のレンジの広さが全然違いました。
北川 照明
ヘッドホンは、CDやストリーミングで手に入れた音源を100%とした場合、それが120%とか150%くらいにレベルアップして聴こえる様な自分好みの機種を選んで楽しむリスニング用と、0から音を創っていくための手掛かりとして使うモニター用となるヘッドホンは、根本的に違うと思うのです。 これだけのヘッドホンを聴き比べると、ミキシング用と言われているヘッドホンの中にも高域が多めになっているものがありました。確かに高域が出ている方が、良く聴こえる傾向にあるのでミキシング用でも幾分そういう傾向なのかなと思いました。 でも、今日聴いたヘッドホンはすべて一定のクオリティを超えていると思います。あとはもう音楽もそうですが、自分の好みに合うか合わないかという部分だけですね。
川澄 伸一
どれも良かったですね。ただ、自分のミックスをOLLO Audioで聴いたら、ちょっと自信がなくなりました(笑)。立体音響のソースが良い音をしていたので、私の腕かなと思って(笑)。立体音響に関しては、ソニーのMDR-MV1も良かった。
高城 賢
これだけ集まると各メーカーさんの音の雰囲気が多少わかりますね。確かにダメだなっていうのはなかった。今回はレベルが高いのが揃っちゃっているのかなと。
Chester
僕は値段が高いから良い、というわけではないというのがよくわかりました。
吉田 保
私はいろんなヘッドホンを聴いて、傾向的に似てきていると感じました。あとはイヤーパッドのフィット感が良くなりましたね。人間工学によくできていると思った。 メーカーさん、代理店さん、今日はたくさんのヘッドホンを集めていただき感謝します。ありがとうございました。