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OUTLINE 概要

「JARECについて #1」に引き続き、話は先輩から後輩への技術の継承や、エンジニア同士の情報交換などへ。
2019年6月12日収録

SECTION.1 エンジニアの情報交換

吉田 保

次は“日本レコーディングエンジニア協会の会員数を増やすには、どのような事をすべきか?”を話し合いましょう。

北川 照明

以前、東放学園音響専門学校に務めるJAREC正会員の脇田貞二くんが“最近はPAや照明など、アーティストと関わるような仕事を目指す学生が多い”というんです。対して、レコーディング・エンジニアは、レコーディングのある日以外、部屋にこもってミックスする辛い仕事というイメージがあるそうです。 私が若い頃は、各レコード会社に録音部があり、同僚もいたし、先輩や後輩もいた。その中で、先輩から得たノウハウを受け継ぎ、それを今度は後輩に伝える。大変なときもあったけれど、良い意味で徒弟制度がありました。そして、メーカーや代理店が営業に来て、他社の機材情報も自然と入ってくる。 1人で一日中ミックスをしても、スタジオから出れば誰かいたので、気分転換もできました。

吉田 保

JARECに来れば、情報が集まる、先輩が得たノウハウを後世に引き継いでいくような組織になるといいよね。

北川 照明

私がJARECの会員になったのは、フリーランスになったからでした。理由は、フリーランスになると、それまで得られていた情報が大きく減るんです。また、吉田さんや内沼さん、他にも名前は知ってはいるけれど、話したことのない人がたくさんいました。様々な方とお話できるようになったのは大きな財産です。もちろん年間費などお金は掛かりますが、実際に使える有効な情報を得る貴重な場でした。 私が気になっているのは、あるアーティストの専属エンジニアになると、そのグループ内で得たスキルがメインになる。もちろん、それがアーティストの要求レベルに対して充分に応えられれば、我々がとやかく言うことではありません。そういうレコーディング・エンジニアでも日々仕事をする中で「もっといい結果が出るようにマイクの立て方や機材の使い方があるんじゃないか?」と考える事もあると思います。JARECは、レコーディング・エンジニア同士の情報交換や情報共有といった面でも魅力のある組織にする必要があるでしょうね。

下川 晴彦

私も北川さんと同じ様にレコード会社の録音部からフリーランスになったので、社内でしていたような情報交換や、先輩に質問すれば教えてくれる。その様な環境をJARECでも作りたいですね。

吉田 保

確かに同世代の繋がりが作りにくい環境になったね。JARECも会員が様々な情報を得ることができる仕組みを作りたいね。いまJARECは、敷居が高いと思われているみたいだからね。

北川 照明

もうひとつ、技術伝承や技術獲得に対して言いたいのは、プラグインを使って同じ結果となったとしても、エミュレートされたヴィンテージ機材のプラグインに、なぜこのボタンやパラメータがあるのか、その理由をわかって使うのと、知らずに使うのでは、使い方に違いが出るし、これまでと違った新しい発想を思いつくと思う。

川澄 伸一

リヴァーブは元々、残響の多い部屋にスピーカーを置いて音源を鳴らし、その部屋の残響をマイクで拾って使ったのが始まりだとか、プレート・エコーの鉄板も見たことがないでしょうね。そういう事こそ皆さんに伝えていきたい。 実はそういった機材の歴史や効果をJARECのウェブサイトに掲載していく事を検討しています。

北川 照明

だいたい25年くらいで、世代が変わりますから、我々が得たノウハウや技術を継承していく。もちろん、フリーランスも参加できるような場を提供すると良いですね。いまやレコーディング・エンジニアと名乗っている人の中には、Pro Toolsを熟知しているだけという人もいます。そういう人が、たまたま作家やアーティストと出会って「明日から録音してほしい」と頼まれる。そのとき、見よう見まねでマイクを立てて録音して、後はPro Toolsで差し替える。しかし、仕事に行き詰まった時に、お店に行ったり、ネットで調べたり、知り合いに聞くなどして、なんとなく目指した音に近づける。実はフリーランスのエンジニアが一番、情報を渇望しているんですよ。

下川 晴彦

そうですね。先日、地方の仕事で「Pro Toolsがあるので、録音もできます」と言うので、レンタル・スタジオを借りたんです。その時、最新バージョンのPro Toolsなんですが、古い使い方をしていました。もちろん、彼らもインターネットで使い方を知ろうとしているけれど「今!何をしたんですか?」と聞かれる。地方に行くと、我々の仕事風景がとても勉強になる様です。大都市圏以外の場所で仕事をしている人こそ、実践的な情報を欲しがっているのだと感じました。

森元 浩二

地方にいるレコーディング・エンジニアに対して、JARECの存在を知ってもらう取っ掛かりを作る必要はありますね。例えばYouTubeのライブ配信を行い、JARECの会員がマイクの立て方、Pro Toolsの使い方などを発信して、この内容なら東京まで行ってセミナーに参加したいと思う内容にする。最初は大変だけど、会員を増やす方法のひとつでしょうね。

北川 照明

地方には、僕らが知らないスタジオがたくさんあると思いますし、サウンド・エンジニアも相当いると思います。そういう人と、どうやってコミュニケーションするのか。そして、業界発展のための情報発信、情報提供、先輩のノウハウや技術を後世に伝えていく。そして、困ったときにJARECに聞けばいい。そういう相談や、意見交換できる場としてJARECが存在する。著作隣接権獲得と同様に、取り組んで行くべき大切な役割だと思います。