SPECIAL
OUTLINE 概要
今回は主にテープレコーダーのお話。
2019年6月12日収録
SECTION.1 オープンリールについて
森元 浩二
昔はどんどん新しい機材が出てくるので、そのような話題が多かったのですが、最近の話題の中心はプラグインです。少しでもいいものを使いたい、時代に乗り遅れたくないという思いでしょうかね?
吉田 保
若い人には、プラグインの話でもいいんです。それなら、こうした方が良いというアドバイスになるからね。
浜田 純伸
それが最近、厄介なことになって来ていて、私が講師をしている専門学校の授業で、テープシミュレーターのプラグインを教える事があったんですね。そのプラグインは、バイアス値も調整できるようになっていたんです。でも、このボタンの意味を理屈から説明しようとすると授業が終わっちゃうなって(笑)。それで、数字が高くなるとこもったような音、下げるとシャリシャリした音になるでしょう? という教え方しかできない。
森元 浩二
音を聞きながらいいところを探しなさいと(笑)
浜田 純伸
そもそもテープレコーダーを知らない世代ですからね。なぜテープシミュレーターに、その調整ができるようになっているのかわからない。でも、理屈はわからなくても、テープシミュレーターを使っている人は多いようで「あのテープシミュレーターは良い」と話すんです。良いと言っても、パラメータの意味もわからずに好き勝手に使い続けるのは、ちょっとどうかなと心配になりました。
北川 照明
結果は同じでも、知って使うのと知らずに使うのでは、大きな違いが出てきますからね。
川澄 伸一
他のエフェクターもそうですよ。私も学生にリヴァーブのエコー・ルームの説明に窮した事があります。
浜田 純伸
エンジニアでも、プレート・エコーの語源である鉄板を見たことは、ほとんどないでしょうしね。
川澄 伸一
いまはプラグインになっているけれど、本来はこういう機材だった、こういう使われ方をしていました、ということを学生や若いレコーディング・エンジニアに伝えていきたい。プラグイン化してしまった機材の歴史や、本来、どんなところを調整すれば、どういう変化があるのか、といった話もJARECのウェブサイトで知る事ができるようにしたいですね。
北川 照明
限られた現場と情報で仕事をしているレコーディング・エンジニアは、他の人がどんな事をしているのかわからない、孤立状態に近い状況の人もいるでしょうね。余計なお世話かもしれないけど、いまの世代のエンジニアが必要としている技術や僕らの経験を伝えたいですね。
浜田 純伸
また、ほとんどのアウトボードがプラグイン化されているので、本物を見たことがない人も多い。これは学生だけでなく、新人に対しても説明が難しいと思うんです。
川澄 伸一
でも、講師としては説明しないわけにはいきません。
浜田 純伸
そうなんです。だから、先程のテープシミュレーターの話でいうと、テープスピードのことにしても、30ips、15ipsという数字が書かれているけど、これはテープのスピードを表す数字で、数字が多ければそれだけ多くのテープを使うから高域は伸びるけど、低域は数字が少ない方がちょっと豊かだったりするとか、音質に影響がある。それ以上は言えないですよね。
北川 照明
似たような体験で、知り合いに「カセットテープが切れたので、繋いで欲しい」と頼まれてね。それでスタジオに行って、20歳くらいのアシスタントに「スプライシングテープをちょっとくれるかな?」と聞いたらわからない。事務所にいた他の人が見つけてくれたけれど、もう死語になっているのかな。
森元 浩二
コンソールのあるようなスタジオなら、まだテープレコーダーは使っていると思います。うちはマルチトラック・レコーダーもあり、直接録音するのはもちろん、Pro Toolsで録った音を通して録り直すなど、よく使われています。
吉田 保
もう売っていないのかな。
森元 浩二
いえ、まだ売っていますよ。知らなかったのは新人ですか?
北川 照明
そうそう。「勉強した学校にテープレコーダーはあった?」って聞いたらなかったそうです。10年くらい前までは新人が「テープレコーダーは授業で習いました」と言っていました。
浜田 純伸
ただ、いまは安定性の高くてクオリティの高いテープがないですね。
森元 浩二
ですね。でも今の人はテープのクオリティが高かった頃の音を知らないので「アナログテープの音ってこういうものか」って、思われていると思うとちょっと残念ですね。昔は良かった!(笑)
北川 照明
僕も最近、レコーディングのためにアンペックスのテープを使ったんですが、15kHzの信号を入れるとL/Rのメーターが逆に振れるんですよ。僕らが使っていた時のアンペックスではなくなりました。
森元 浩二
僕のところはATRを使っています。
浜田 純伸
ドイツのATRは、アンペックスの工場を買収して作っているテープメーカーですね。確かにATRは、充分に使えるテープだけど、品質にばらつきがあるような気がします。
北川 照明
数十年前まであれ程完成していた技術でも、きちんと継承しないとここまでクオリティが落ちるのかと愕然としました。特にアナログ系は、職人芸だから一度廃れるとなかなか元に戻せない。
浜田 純伸
実はもうひとつ問題があって、テープのクオリティが良く、テープレコーダーがきちんと動く状態でも、リファレンステープがない。もうデッドストックしかないというんです。
森元 浩二
無くなるのは時間の問題でしょうね。いつまでテープレコーダーが使えるか。
浜田 純伸
例えばネット・オークションや、誰かが新たにリファレンステープのデッドストックを見つけたと言われても、磁束密度が正しいのかわからない。
北川 照明
要はこういう会話を、若い世代にも、役に立つかどうかわからないけれど、聞いてもらいたい。