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JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第1章

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2020.08.11
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OUTLINE 概要

2月21日に開催した「JAREC著作権セミナー」の内容を全9回に渡り掲載していきます。
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JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第1章(全9章)

日 時:2020年2月21日(金)16:00~18:00
場 所:東放学園音響専門学校・渋谷校舎 3F3A1教室
講 師: 安藤 和宏氏/東洋大学法学部教授

内 容:
1. 音楽近代化法の解説
・2018年10月に米国で制定された「音楽近代化法」の成立背景とその概要、さらにプロデューサー、ミキサー、サウンド・エンジニアが分配対象に追加された音楽近代化法の中の「AMP Act」について詳しく説明します。

2.日米における音楽著作権の相違と留意点
・アメリカには著作隣接権制度がないため、日本とビジネスのスキームが大きく異なります。
なぜ隣接権制度がないのか、それが音楽ビジネスにどのような影響を与えているかを解説します。

3.今後の動向について
・米国の法改正による日本への影響はあるのでしょうか。また、エンジニアの権利はどのようにあるべきなのでしょうか。
アメリカの法制度を参考にして、今後の動向についてお話しします。

SECTION.1 第1章

吉田:JAREC著作権セミナーに、お越しいただきありがとうございます。今回はJAREC著作権セミナーと題して、東洋大学教授 安藤和宏先生に「音楽近代化法」というアメリカの法律について、お話しいただきます。それでは安藤先生よろしくお願いします。

安藤:よろしくお願いします。タイトルになっている「音楽近代化法」とは、アメリカの法律ですから、アメリカの法改正を中心にお話ししていくことになります。
 本日の著作権セミナーでは、大きく3つのポイントについてお話しします。1つめが「音楽近代化法の解説」、2つめが「日米における音楽著作権の相違と留意点」、最後にアメリカの法制度を参考にして、「今後、日本の著作権法はどの方向に向かうべきか」について解説していきます。ちなみに、私は歯に衣着せぬ話が売りでして、参加者にどんな方がいらっしゃるのかわかりませんが、普段通り、お話ししていきます。

 音楽近代化法は、2018年10月11日に成立した、音楽の著作権法に関連する“MMA(Music Modernization Act)”、“CLASSICS Act”、“AMP Act(Allocation for Music Producers Act)”という3つの法案をまとめた改正法を意味します。この法改正の目的は、「音楽配信に関する法整備をして、音楽ビジネスを発展させましょう。そして、著作権の権利者に正当な使用料を分配しましょう」というものです。中でもMMAとAMP Actは、みなさんにとって非常に重要な法律になりますので、後ほどたっぷりと時間をかけて詳しくご説明したいと思います。
 残りのCLASSICS Actは、日本で言うところの“原盤権”に関する法律です。これは、これまで州法で保護していた1972年2月14日以前に作成された原盤を、新たに連邦著作権法で保護するように改正した法律です。

 法律の話に入る前に、日本の音楽市場の現状をお話ししましょう。みなさんも実感されていると思いますが、日本も含めて世界的にCDやレコードなどのフィジカル・メディアの売上はどんどん落ち続けています。一方、音楽配信の売上、特にストリーム配信の売上は増加の一途をたどっています。日本ではようやくサブスクリプション(定額制)がビジネス・モデルとして定着し始めていますが、世界的に見ると、フィジカルから音楽配信への移行がとても遅い。いまの日本の市場規模ですが、フィジカル・メディアと音楽配信の合計売上額は約3,000億円です。市場規模としては、アメリカに次いで世界2位です。
 日本で最も売上が多かった年は1998年でした。この年の売上額が約6,000億円。その年をピークに、ずっと右肩下がりに推移して、昨年はフィジカル・メディアだけで約1,530億円です。音楽配信が約700億円。その他、音楽ビデオなどを合わせても約3,000億円です。この売上の合計額は2013年くらいからずっと横ばいです。

 ところが、世界の音楽市場は右肩上がりで、どんどん大きくなっています。完全に好景気に入りました。特にアメリカでは音楽市場が拡大しています。全米レコード協会(RIAA)が出している資料(図1)を見てください。2016年から2018年までの3年間の売上額を見ると、大きく右肩上がりになっています。2018年のリテール(小売ベースの売上高)を見ると98億ドル、仮に1ドル=110円とすると、約1兆800億円となります。

                 図1

 なぜ、このように右肩上りになっているのかというと、お察しの通り、サブスクリプション・ビジネスが好調だからです。左(図2:左)は、“U.S. Paid Music Subscriptions(ANNUAL AVERAGE、年平均値)”と書かれていまして、サブスクリプションの加入者数になります。これを見ると、年々、加入者数は増加していて、2018年は5,020万人が有料のサブスクリプション・サービスに加入したということになります。もちろん、アメリカの人口は日本の3倍くらいなので、そもそも市場規模が違いますが、サブスクリプション・ビジネスが急成長しているのがよく分かると思います。

                 図2

 サブスクリプション・サービスの加入者数の右にある円グラフ(図2:右)は、売上の内訳です。売上の75%を占めているのがサブスクリプションを含めるストリーミング配信です。フィジカル・メディアは12%。ダウンロード販売も11%と、あまり売れていません。ストリーミング配信が音楽ビジネスの中心となっていることがよく分かると思います。
 このような状況ですから、ロビー活動をしているレコード・レーベルや配信事業者は、「音楽配信でもっと音楽業界の市場を大きくしたいので、音楽配信サービスの法整備を行なってください」と言うわけです。フィジカル・メディアやダウンロード配信は死に体。なので「ストリーミング配信で稼ぎましょう」と。このように、アメリカの音楽業界の方針は、はっきりしています。
 このグラフは、音楽近代化法が制定される2018年以前の売上ですから「こんなに好景気なのに、特に法律を改正する必要はないんじゃないの?」と思われる方がいるかもしれません。確かにアメリカの音楽配信における法制度は、日本に比べるとかなり整備されていると思います。しかしながら、直さなければいけない所が1箇所だけあるんですね。そこを音楽近代化法で修正しました。それをこれから解説します。

 さて、ここで音楽配信サービスの種類と内容を確認したいと思います。音楽配信サービスは、大きく分けて3種類あります。
 1つめは“ダウンロード配信”です。iTunesやmoraなどで、1曲200円とか支払って楽曲をダウンロードして、それをユーザーが好きな時に聴くというサービスです。このサービスが音楽配信で最初に成功したビジネスですよね。
 2つめは、インタラクティブ型ストリーミング配信です。これが現在、主流となっている音楽配信ですね。アメリカで音楽売上の75%を占めているサービスです。簡単に言うとサブスクリプション・サービスですね。アメリカではSpotify、Apple Music、Tidal、DEEZERといったサービスが提供されています。日本ではSpotify、Apple Musicの他にAWA、Line Musicなどがあります。毎月定額を払って、好きな音楽を選んで聴けますが、ダウンロードはできません。このサービスは、世界的に流行っており、ようやく日本でも流行りはじめています。
 3つめが、非インタラクティブ型ストリーミング配信です。配信事業者が選曲した音楽がネットから流れてくる。これはDJがいるか、いないかの違いくらいで、ラジオ放送とほとんど一緒ですから、インターネット・ラジオと呼ぶ人もいます。アメリカではPandra Radio、SiriusXM、NPRが有名ですが、日本でもSMART USEN、うたパス、dヒッツなどがあります。

SECTION.2

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安藤 和宏氏プロフィール

1963年生まれ、東京都葛飾区出身。東京学芸大学卒業、フランクリンピアース・ローセンター(LL.M.)、ワシントン大学ロースクール(LL.M.)修了、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程博士研究指導終了(法学博士)。
高校教諭、音楽出版社の日音、キティミュージック、ポリグラムミュージックジャパン、セプティマ・レイ、北海道大学大学院法学研究科特任教授を経て、現在、東洋大学法学部教授。
専門は知的財産法、音楽ビジネス論。

セプティマ・レイ
http://www.septima.co.jp/

主な著書 
http://www.septima.co.jp/books/