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JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第3章

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2020.08.25
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OUTLINE 概要

JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第3章(全9章)

日 時:2020年2月21日(金)16:00~18:00
場 所:東放学園音響専門学校・渋谷校舎 3F3A1教室
講 師: 安藤 和宏氏/東洋大学法学部教授

内 容:1. 音楽近代化法の解説

    2.日米における音楽著作権の相違と留意点

    3.今後の動向について

SECTION.1 第3章

安藤:ここまでお話しした通り、アメリカの音楽著作権ビジネスは、権利によって管理の仕方がまちまちです。これがとても面白い。一方、日本では全支分権をJASRACに預けることが多いですね。あるいはNexTone。ただし、まだNexToneは演奏権使用料の徴収を始めていません。なので、演奏権はJASRAC、それ以外の権利はNexToneに預けるという音楽出版社も増えています。いずれにせよ、音楽出版社が権利を自己管理することがとても少ないです。
 アメリカでは、音楽出版社が全支分権を1つの著作権事業者に預けることはありません。録音権はここ、演奏権はここ、シンクロ権は自分、出版権も自分、というように権利によって管理者が異なります。ここが日本と大きく違う点ですね。アメリカでは、音楽出版社が自己管理するパターンと、著作権管理団体であるハリー・フォックス・エージェンシーが管理するパターンに分かれている。ここが問題になります。

 冒頭(第1章)でも話したとおり、音楽配信サービスには、ダウンロード配信、インタラクティブ型ストリーミング配信、非インタラクティブ型ストリーミング配信の3種類があります。この中で問題になるのは、ダウンロード配信とインタラクティブ型ストリーミング配信(サブスクリプション)の2つです。
 音楽配信サービスにかかる権利の種類(図3)を見てください。ダウンロード配信の場合、録音権が働きます。インタラクティブ型ストリーミング配信では、録音権と演奏権が働きます。ストリーム配信なので、演奏権が働くんですね。日本では法律上、“公衆送信権”と言いますが、アメリカは公衆送信権とは言わず“実演権”と言っています。

                図3

 配信事業者がダウンロード配信サービスを提供する場合、録音権の権利処理をしなければなりません。インタラクティブ型ストリーミング配信を提供しようと思ったら、録音権と演奏権の権利処理をする必要があります。これは法律と判例で決まっているんですね。
 ここから面白いことが分かります。先ほどお話ししたように、録音権を自己管理している音楽出版社はたくさんあります。また、ハリー・フォックスも多くの楽曲の録音権を管理しています。したがって「この曲をダウンロード配信したい」「この曲をインタラクティブ型ストリーミング配信したい」と思ったら、1曲毎に権利者を探して権利処理を行わないといけません。この処理がとても大変です。iTunesで数百曲を配信するくらいならまだ良いですが、サブスクリプション・サービスで10万曲配信しますとなったら、10万曲分の録音権の権利処理をしなければなりません。
 演奏権の方は楽ですね。アメリカでは、主要な演奏権管理団体は4つ(ASCAP、BMI、SESAC、GMR)しかない。それぞれと包括使用許諾契約を締結するだけで良いのです。このように演奏権は簡単ですね。なので、大きな問題は発生していません。

 一方、録音権の権利処理はとても大変です。これを放置しておくと、録音権の処理が大変なために音楽配信ビジネスが進みません。でも、SpotifyやApple Musicといった配信事業者は、サブスクリプション・サービスを拡大したいし、サブスクリプション・ビジネスに新規参入したい配信事業者もいる。しかし、「ようし、俺もやるぞ」と考えてサービスを始めると、ミスっちゃうんですよ。未許諾の楽曲を権利処理済みと間違えて配信してしまうと「勝手に私の曲を配信したでしょう」と、権利者から訴訟を提起されることになる。実際、訴訟になったケースが結構あります。そうなると、配信事業者は常に訴訟リスクに晒されることになる。「こんなビジネスはやっていられない」ということになりかねない。つまり、音楽配信のサブスクリプション・ビジネスを手がける配信事業者にとって、困るのが録音権の処理なのです。配信したい曲を管理している音楽出版社を間違えることも少なくない。なぜこういう事が起きるかと言うと、楽曲の録音権とサウンド・レコーディングの情報を網羅するデータベースがないからなんですね。

 それでは、どうしたら良いでしょうか? 実はとても簡単です。新たに音楽配信にかかる録音権管理団体を設立して、許諾窓口を1つにして、権利処理すればよい。そうすれば、配信事業者はいちいち権利処理のために、音楽出版社を探す必要がなくなります。訴訟リスクも大幅に減少します。そのためにJASRACみたいな管理団体を作ってしまう。新しく録音権管理団体を設立して、権利処理を効率化すること。これが今回の法改正の趣旨です。面白いのは、今回の法改正によって、録音権に対する包括的な強制許諾制度が導入されたことです。
 強制許諾制度とは「著作権者または法律が指定する団体に対して既定の使用料を支払えば、個別の許諾を得ることなく著作物を利用できる」という制度です。アメリカはこの強制許諾制度がお気に入りらしく、著作権法のいろんなところに強制許諾制度が導入されています。この制度を音楽配信にかかる録音権にも導入しようということなんです。

 実は、改正前の著作権法にも録音権について強制許諾制度が導入されているんです。ですから、ダウンロード配信とインタラクティブ型ストリーミング配信を行う場合、強制許諾制度を利用すれば、録音権を管理する音楽出版社にきちんと事前に通知をしてお金を払えば、個々に許諾を得ることなく、音楽配信ビジネスを行うことができます。しかし、従来の強制許諾制度は少々使い勝手が悪い。そこで、もっと音楽配信事業者にとって効率的な制度にしましょうというのが、法改正をした理由の1つです。
 何が使いにくいのかというと、「楽曲毎に録音権の保有者を特定し、通知し、毎月使用料を分配する必要がある」というところです。結局は音楽出版社を探さなければならない。最初に録音権を保有している権利者を探します。次に、各権利者に「強制許諾制度であなたの曲を使いますよ」と通知して、毎月使用料を払い、印税明細書を送付する。これがものすごく大変です。

 2つめの問題は、サウンド・レコーディングのISRCや音楽作品の作品コードなどいろいろな情報を網羅しているデータベースが存在していないことです。そのため、配信事業者が権利者を特定できないことがありました。そうすると、自分の曲がネットで流れているのに、1円も入ってこない、ということも起きてしまいます。

 そこで法律を改正して、録音権に関する包括的強制許諾制度を導入し、録音権管理団体を設立して、権利処理をワンストップにして手続を効率化する。さらに音楽作品の録音権とサウンド・レコーディングの情報を網羅したデータベースを作る。MMAを簡単に言うと、この2つの目的を実現するための法律ということになります。その結果、配信事業者の権利処理が大幅に効率化します。従来は、音楽出版社に「強制許諾制度を使ってあなたの曲を配信します。使用料も払います」と事前に通知し、毎月印税明細書を送付して使用料を支払わなければならなかった。しかし、法改正によって、配信事業者は新しく設立される録音権管理団体に使用許諾を求め、使用料を支払えばよいことになった。これで権利処理がとても簡単になりました。
 そして、この法律の下で、新しい録音権管理団体メカニカル・ライセンシング・コレクティヴ(Mechanical Licensing Collective)が設立されました。これからはSpotifyもApple Musicも音楽配信にかかる録音権使用料をこの団体に払えばいいことになります。これによって、権利者も取り漏れがなくなるので、両手を挙げて喜んでいます。法案が可決された際に、連邦議会でこの法案に反対する者はいなかったそうです。

 この法改正によって、アメリカでは音楽配信事業がかなり発展しました。とりわけサブスクリプション・サービスを行う配信事業者は、仕事がしやすくなりました。権利者も確実に使用料が支払われることになり、Win-Winの状況になりました。音楽配信業者は、録音権の処理に関しては、新しく設立されたメカニカル・ライセンシング・コレクティヴに手続し、演奏権に関しては、ASCAP、BMI、SESAC、GMRに手続する。これで終わりです。法改正から約2年が経ちますが、この法律に対する評価はとても良いようです。