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JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第6章

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2020.09.15
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OUTLINE 概要

JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第6章(全9章)

日 時:2020年2月21日(金)16:00~18:00
場 所:東放学園音響専門学校・渋谷校舎 3F3A1教室
講 師: 安藤 和宏氏/東洋大学法学部教授

内 容:1. 音楽近代化法の解説

    2.日米における音楽著作権の相違と留意点

    3.今後の動向について

SECTION.1 第6章

安藤:許諾権の話に移りましょう。日本では他人の原盤を自由にインターネット配信することはできません。ウェブ・キャスティングの配信事業者は、使用する原盤の権利を保有するレコード・レーベルから許諾をもらっています。いちいち、「この曲の原盤使用料はいくらですか?」と交渉しています。1,000曲使うなら、1,000曲分の許諾をもらっています。これはとても大変です。
 ところが、アメリカでは強制許諾制度があるので、1つ1つの原盤の許諾を得る必要はありません。強制許諾制度を利用したい配信事業者は、音楽配信サービスを始める前に著作権局に対して使用通知書(Notice of Use)を提出します。使用通知書には、氏名、住所、電話番号、FAX番号、サービス開始日を記載します。手数料40ドルも必要です。配信事業者には、使用料の支払いや支払明細書、使用報告書を提出する義務があります。しかし、個別に許諾を得る手続を比べると、とても簡単です。アメリカは強制許諾制度が大変お好きなようで、ここにも導入しています。ビジネスを加速度的に前に進めるため、強制許諾制度を大いに活用しているのです。これは日本でも参考にすべき政策です。日本では許諾権を基本としていて、強制許諾制度や報酬請求権制度を導入しないので、なかなか音楽配信ビジネスが進まないという現状があります。

 みなさんの中には「どんな原盤でもインターネット放送していいの?」と思う方もいらっしゃるでしょう。さすがに「今日発売の新譜のアルバムです。これを今日は何十回も連続して配信します」となると、レコード・レーベルもアーティストも「ちょっと待って」となりますよね。なので、著作権法には強制許諾制度を利用するための条件がかなり細かく規定されています。
 まず、リスナーが聴きたい曲を選択できないことです。非インタラクティブ配信ですから、当然ですね。配信する曲を事前に告知することもダメです。さらに一番大事なのは、「3時間以内に①同じレコードから4曲以上のサウンド・レコーディングを送信してはいけない。ただし、3曲以上続けて送信してはいけない。②同じアーティストによるサウンド・レコーディングを5曲以上送信してはいけない。ただし、4曲以上続けて送信してはいけない」ということです。つまり、同じアーティストの曲を流すときに、新譜を連続して配信すると、さすがにアルバムの売上に影響がでます。つまり、CDとインターネット放送のカニバライズ(喰い合い)を防ぐということですね。なので、3時間以内に何曲まで流せるのかという制限を作っています。こうして、なるべくCDの売上を奪わないようにしています。

 他にもいくつかの条件がありますが、これらをすべて満たせば、配信事業者は強制許諾制度を利用することができます。この強制許諾制度は、ビジネスを促進するためには、なかなか魅力的な制度です。利用手続もシンプルで、著作権局に使用通知書を提出して、登録手数料を払い、支払明細書と使用報告書、原盤使用料を非営利団体サウンド・エクスチェンジ(Sound Exchange)に渡せばよい。ワンストップ、とても簡単です。
 では、インターネット放送の配信事業者は、どのように使用許諾を取得し、権利者に使用料を払っているのでしょうか。こういう流れです(図4)。まず、音楽作品の著作権処理ですね。インターネット放送は演奏権しか働かないから、4つの団体(ASCAP、BMI、SESAC、GMR)と包括契約を締結し、使用料を払えば良いから簡単です。

               図4

 次に、サウンド・レコーディングの原盤権ですが、先ほどお話しした通り、配信事業者は、音楽配信サービスを始める前に著作権局に対して使用通知書、非営利団体のサウンド・エクスチェンジに支払明細書や使用報告書を提出し、原盤使用料を支払わなければなりません。しかし、個々の権利者と交渉し、使用許諾を受ける場合に比べると、格段に効率的で取引費用が減少します。このように原盤の権利処理が容易にできることが、インターネット・ラジオが流行っている理由の1つです。

 この図(図5)ですが、左がPandora RadioやLast.fm、SiriusXMといったアメリカで有名なインターネット・ラジオの配信事業者です。配信事業者が使用料をサウンド・エクスチェンジに払います。サウンド・エクスチェンジは手数料として徴収額の約10%を取ります。そして、残りの使用料の50%をレコード・レーベル、50%を実演家に分配します。私も50:50が妥当だと思っています。実演家のサウンド・レコーディングに対する貢献度を考えると、当然の数字ですよね。60%でもいいくらいです。

                図5

 さて、この50%をレコーディングに参加している実演家で分けます。アメリカでは、メイン・アーティストを指す主演実演家(Featured Artist)が45%、バック・ミュージシャンを指す非主演実演家(Non-featured Artist)が5%。9:1の割合で分けています。
 このセミナーを準備する中で、面白いからみなさんに話そうと思ったことがあります。1992年にアメリカで私的使用録音補償金請求権制度というのができたんです。日本でも同じような制度ができました。私的使用のために使用される録音機器と録音媒体に補償金をかけましょうという制度です。日本でもSARAH(サーラ、私的録音補償金管理協会)という団体ができました。SARAHAが徴収した補償金は、JASRAC、日本レコード協会、芸団協(公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会)の間でだいたい3等分しています。一方、アメリカではレコード・レーベルの取分が57.6%と多かったんです。それが今はレコード・レーベルと実演家の取分比率は50:50です。実演家の地位が上がったのでしょう。私もこれを見つけて、「おお、取分比率が変わっている」と感動しました。今ではアメリカだけではなく、ヨーロッパも50:50です。世界的にレコード・レーベルとアーティストの取分比率は50:50がスタンダードになっています。これはすごく大事なことなので、ぜひ覚えておいてください。

 数年前、調査のためにサウンド・エクスチェンジに行きました。ニューヨークにあるんですけれど、全米レコード協会を母体として2003年に設立されたNPO法人です。連邦議会から指定を受けている団体で、ウェブ・キャスティングやサイマル・キャスティングなどのいわゆるインターネット放送の配信事業者から使用料を徴収して、権利者に分配することが仕事です。分配額の推移を見てみましょう(図6)。順調に上がっていますね。2019年は9億800万ドルでした。日本円でだいたい1,000億円ですね。インターネット放送だけで分配額が1,000億円です。

                図6

 このグラフを見ると、2017年の分配金が激減しています。それが翌年に復活して、また2019年に少し下がっています。これには理由があります。決して、インターネット・ラジオが下火になったわけではないんです。2017年にPandora Radioというアメリカ最大のインターネット放送事業者がレコード・レーベルと契約して、直接レコード・レーベルに使用料を支払うようになったんです。たぶんちょっと安くなったのでしょう。アメリカの強制許諾制度では、レコード・レーベルとの直接契約もできるんです。つまり、強制許諾制度を使うか使わないかは、配信事業者の自由なのです。2017年にPandora Radioは「自分たちはレコード・レーベルに許諾をもらって直接払いますよ」と方向転換しました。だから、2017年に分配額が大きく落ち込んでいます。
 しかし、翌年の2018年に急に分配額が増えています。この急上昇にも理由があります。2007年から揉めていたSirius XMからの和解金が、サウンド・エクスチェンジに1億ドルくらい入ってきたからです。そういう特別な事情が2017年と2018年にはありました。そこで、SiriuxXMの和解金やPandora Radioの直接交渉を踏まえて修正したグラフ(図7)を作成しました。これを見ると、しっかりと右肩上がりになっているのが分かります。ここにもしもPandora Radioの取分が入っていたら、もっと右肩上がりが顕著だったでしょう。

               図7

 このように、アメリカではインターネット・ラジオがとても流行っています。インターネット・ラジオのマーケットだけで1,000億円以上あるわけです。
 これを日本の市場と比較してみましょう。2018年の有料音楽配信売上額(図8)は645億円です。アメリカでは、インターネット・ラジオだけで1,000億円です。「どれだけ遅れているの?」という話です。日本ではとても音楽配信ビジネスが遅れています。法律でやれることをやっていないからです。ぜひ、サウンド・エクスチェンジのホームページを見てください。いろんなデータが載っています。そこにサウンド・エクスチェンジから支払われた使用料の多い曲ベスト10が載っているんですよ。つまり、リスナーが一番聴いた曲ですね。だた、サブスクリプションではないので、自分で選んだのではありませんが、インターネット・ラジオで最も流れた曲が載っています。

               図8

 私も実際にベスト10をすべて聴いてみました。その時、面白いことを発見したんです。すべての曲が短い。4分以上の曲はありませんでした。ほとんど3分前後でした。たぶんみなさんも昔、ディレクターから「曲は3分でまとめてください」と言われたと思います。私も3分くらいがちょうど良いと思います。もう一回聴こうと思っちゃいますから。