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JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第8章

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2020.09.30
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OUTLINE 概要

JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第8章(全9章)

日 時:2020年2月21日(金)16:00~18:00
場 所:東放学園音響専門学校・渋谷校舎 3F3A1教室
講 師: 安藤 和宏氏/東洋大学法学部教授

内 容:1. 音楽近代化法の解説

    2.日米における音楽著作権の相違と留意点

    3.今後の動向について

SECTION.1 第8章

安藤:そして、もう1つ、AMP Actからの示唆として、パイの奪い合いがあります。これはお金のリアルな話なので、なかなか言いにくい所もありますが、結局はどれだけ自分の取分を増やすかというパイの奪い合いの側面があります。たとえば100万円の使用料があったとして、「これを権利者間でどう分けますか?」という話に帰結するわけです。自分の取分を増やすには、相手の合意が必要になるわけです。そのためにエンジニアも理論武装しなければなりません。それをこれからお話しします。

 アメリカではインターネット放送における主演実演家の取分が90%とかなり大きいです。一方、非主演実演家の取分は10%。日本ではちょっと「ん?」と首をかしげますよね。日本は、だいたい主演実演家と非主演実演家は65:35くらいなので、相当な隔たりがあります。
 ここで大事なのは、プロデューサーやミキサー、サウンド・エンジニアは、主演実演家の取分から使用料をもらっていることです。つまり、非主演実演家の取分からもらっていない。なぜか? 強い抵抗があるからです。もし、非主演実演家の取分からもらおうとすると、「なけなしの10%は、絶対に渡しませんよ」となるでしょう。だから、非主演実演家の取分には手をつけない。賢明です。
 一方、主演実演家の取分は90%もある。しかも、利害関係者は主演実演家1人(1グループ)です。主演実演家と交渉してもらえば良い。これなら承諾を取りやすいですね。関係者が多いと、承諾を得るのが難しくなります。全体から見ると、レコード・レーベルの取分は50%、非主演実演家の取分は5%。ここは手を触れない。プロデューサーたちが受け取る使用料の原資は、主演実演家の取分である45%。だから、このような交渉ができるんです。プロデューサーやミキサー、サウンド・エンジニアが「分けてくださいね」と言ったら、アーティストは「わかりました」と言って、サウンド・エクスチェンジに指示書を出して彼らに分配する。

 今後もJARECは勉強会を開いて、どのような法制度を採用すべきかを研究すると思います。いろんなアプローチがあると思いますが、1つは権利者の1人となる。そして、権利者としての地位を獲得する。これも非常に大事な活動だと思います。しかし、もう1つは、主演実演家から承諾をもらって、分配金をもらうという契約法のアプローチもあると思います。法律上、契約を結べば、主演実演家がOKを出したら使用料はもらえるのです。これが実現できれば、エンジニアにとって大きな第一歩だと思うんですよね。もちろん、権利者団体の分配システムに組み込むためには、メンバー全体の総意が必要となります。

 「じゃあ日本も頑張って、アメリカのような法制度にしましょう」という話になれば良いのですが、そうは簡単にいかないんです。日本ではインターネット・ラジオに原盤を利用する場合、複製権と送信可能化権が働きます。アメリカのような強制許諾制度を導入していません。だから、サウンド・エクスチェンジのような団体が使用料を集めて、そこからレコード・レーベルと実演家に50:50に分けて使用料を支払うということができません。レコード・レーベルがインターネット放送を行っている配信事業者に対して、原盤の使用許諾をし、原盤使用料を受け取ります。これには実演家の取分が含まれています。

 レコード・レーベルと実演家の分配比率は、次のようになっています(図9)。まず、配信事業者がユーザーからお金をもらいますよね。そのお金の50%~60%を、原盤使用料としてレコード・レーベルに払います。レコード・レーベルはこの内の2%から3%を実演家に分配するだけです。つまり、実演家とプロデューサー、ミキサー、サウンド・エンジニアの間でパイの奪い合いをしている場合じゃないんです。ものすごく少ないお金、100円とか200円を奪い合っても仕方がない。愚の骨頂です。

               図9

 今、みなさんがやらなければいけないのは、レコード・レーベルと実演家の分配比率を50:50にすることです。これは世界的に見てもスタンダードな割合です。実演家の取分が1~2%というのは、明らかにおかしいでしょう。私はこのことを至るところで主張しているわけです。
 2018年のアメリカの音楽近代化法の1つ、AMP Actからの示唆として、とにかくレコード・レーベルと実演家の分配比率は50:50にすべきであることを言い続ける。そうやって、実演家の取分のパイを大きくした後に、「われわれの創作的な貢献に対する報酬を考えてください」という話にする。もちろん、実演家の地位を獲得するための活動は重要だと思いますけれど、現実問題として、エンジニアが実演家の地位を確立しても、レコード・レーベルに買取り(buyout)で著作隣接権を取り上げられる可能性が非常に高い。ここでの問題は、正当な使用料の確保なのです。現在の理不尽かつ不当な分配比率を正当かつ公平なものにするべきです。この状態をどうにか止めなければいけない。それを一緒になって止めましょう。そうして大きくなったパイを正当な権利者で分けて、みんなでハッピーになりましょうという戦略が現実的だと思います。

 あまり近視眼的に見ないで、全体を俯瞰して、AMP Actのどこを採り入れるべきか、日本とアメリカの違いをうまく組み合わせて、音楽制作に携わる人々、そしてJARECにとって一番良いアプローチとは、どういうものなのか。そこを考える。それがみなさんにとって最も良いアプローチではないかと思います。ご清聴ありがとうございました。

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次回、第9章は、Q&Aです。