SPECIAL
OUTLINE 概要
JAREC著作権セミナー「アメリカの音楽近代化法と今後の動向」第9章(全9章)
日 時:2020年2月21日(金)16:00~18:00
場 所:東放学園音響専門学校・渋谷校舎 3F3A1教室
講 師: 安藤 和宏氏/東洋大学法学部教授
内 容:1. 音楽近代化法の解説
2.日米における音楽著作権の相違と留意点
3.今後の動向について
SECTION.1 第9章 Q&A
吉田:質疑応答に入りたいと思います。ご質問のある方は?
北川:今回のお話の音楽近代化法は、アメリカの法律ですが、これに類する法律を日本で作ろうという動きはあるんでしょうか?
安藤:ないです。
北川:そうすると、そこからスタートですよね?
安藤:そうですね。今回のセミナーの講師としてJARECからお声がけいただいたのは、私のレポートが文化庁のホームページに載っていたということでご連絡をいただいたのです。
文化庁には国際小委員会という、国際的な著作権の枠組みを検討する委員会があるのですが、そのレポートは委員会の資料として書いたものです。先日、国際小委員会に呼ばれて、MMAの話をしました。先ほどお話ししたように、アメリカでは録音権を管理する権利者が、区々に分かれているので、一本化しましょうという法改正が必要でした。でも、日本ではJASRACかNexToneが録音権を管理していて、音楽出版社が自己管理している曲が少ないんですね。そこで、アメリカみたいに法改正して「JASRACとNexToneだけにして、他はなくしましょう」というような法改正の必要性はないのでは? というお話をしました。ですから、音楽近代化法のうち、MMAに追随するという動きはないと思いますし、私も追随しなくても良いと思います。CLASSIC Actは、日本では全然関係のない法改正です。
そして、いまのご質問はAMP Actについてですよね? AMP Actを導入するためには、まずインターネット放送について強制許諾制度を導入したり、あるいは報酬請求権でもいいんですけれど、とにかく、今は配信事業者からレコード・レーベルに原盤使用料が直接支払われている状況なので、その制度を変えないといけません。AMP Actは、法律の規定によって、すでに大きくなった実演家の取分のパイからプロデューサーやミキサー、サウンド・エンジニアにも分配しますよという法律です。
ですから、今の日本はもっともっと前の段階にいるわけです。レコード・レーベルと実演家の取分比率があまりにも不公平なのです。そこをフェアな取分にしましょうと、4年くらい前の著作権法学会でも言っていますし、ここ何年、そればかりを言っています。実演家サイドが原盤使用料のほとんどを持っていくレコード・レーベルと、配分率の話し合いの場を作ろうとしている段階です。ですから、AMP Actのような法律が生まれるのは、まだまだ時間がかかるという感じです。
浜田:いまのAMP Actに関連してですが、サイマル・キャスティングとウェブ・キャスティングに関しての許諾権を強制許諾制度にしようという動き自体は、具体的になにも進んではいないということでしょうか?
今日のお話を聞くと、インターネット放送での使用を強制許諾制度にすれば、おそらく売上が今よりも遥かに上がるであろうと。そうすれば全体の利益になるであろうと。そう思われるにも関わらず、まだ日本では強制許諾になっていない理由は?
安藤:レコード・レーベルが反対しているからです。
浜田:その理由は、どういう事なんでしょうか。
安藤:強制許諾制度を導入すると、条件を満たした配信事業者は原盤を利用できるわけです。つまり、配信事業者が強制許諾の条件を満たすと「使用するな」と言えないわけです。でも、強制許諾制度があれば、今よりもインターネット放送が普及し、原盤使用料が増えるので、Win-Winじゃないかと、私も何度も言っていますけれども、全然聞いてもらえません。確かに、自分で交渉し、自分で使用料を決めて、自分で許諾するというのが、本来の許諾権のあり方、原理原則です。だからレコード・レーベルは、許諾権のままで良いと思っているんでしょう。私はドクマだと思いますけれど。強制許諾とか報酬請求権という法制度にすると、権利が弱まってしまうので、到底受け入れられませんということだと思います。まあ、気持ちは分からなくもないです。
でも、ここで立ち止まって考えてみる必要があります。アメリカの音楽市場は、世界最大です。アメリカのレコード・レーベルは非常に力が強い。ロビー活動も活発に行っています。そういう国がインターネット放送の原盤利用について、強制許諾制度を導入しているのです。そして、その法制度によってインターネット放送というビジネスが大成功を収めています。おかげでレコード・レーベルの収入も年々増加している。それでも日本のレコード・レーベルは許諾権に固執し、強制許諾制度に反対しているわけです。少なくとも私にはそのように見えます。
今日の話でおわかりになったと思うんですけれども、権利に対する考え方がアメリカと日本でかなり違いがあるということだと思います。音楽作品も原盤も、クリエイターがいったん世の中に出したら、ある程度公益的なものになる。要するに「みんなに聞いてもらいたい、楽しんでもらいたい」と思ってリリースするわけです。リターンはもちろん必要ですけれど、なるべく使いやすいようにして、作品を世の中に広めていくという考え方があります。
一方で、作品の公益的な側面を無視あるいは軽視して、自分の作品に対して絶対的なコントロールを行うという考え方があります。権利処理が煩雑であっても、お構いなしです。市場の拡大にはあまり興味がない。自分の目先の利益を最大限にすればいい。そういう近視眼的なアプローチです。
アメリカの考え方は、どちらの考え方に近いかというと前者だと思います。「音楽は聴いてもらってなんぼ、広まってなんぼ」という考えです。市場を大きくして、収入を増やすというアプローチです。MMAがまさにそのアプローチを採用した法律です。もちろん、利益はちゃんと確保する。インターネット放送は、CDやダウンロード配信、インタラクティブ型ストリーミング配信といったレコード・レーベルのメイン・ビジネスとカニバライズ(喰い合い)しません。
私はインターネット・ラジオに関して、アメリカが採用した強制許諾制度は素晴らしい制度だと思います。実演家とレコード・レーベルのどちらも損をしません。むしろ、市場が拡大して、収入が増えています。既存のサービスとも競合しない。そして、リスナーはもっと気楽に音楽を楽しめるようになる。目先の利益、自分の利益だけでなく、音楽業界全体に立った視点で考えてほしいんですよね。
浜田:ということは、インターネット・ラジオに関して、現状は許諾権が必要になる。でも、地デジとかFMラジオとかがありますが、それは日本においても強制的に許諾されているのですか?
安藤:それは強制許諾制度ではなくて、二次使用料請求権ですね。
浜田:そうですね。そのラジオとインターネットとの違いというのは、どういう理屈なのでしょうか?
安藤:外国では、ラジオ放送やテレビ放送とインターネット放送は同じだと考えて、報酬請求権にしている国もありますし、アメリカのように強制許諾制度を導入している国もあります。多くの国が自国のテレビ放送やラジオ放送に非常に近い法制度にしています。
しかし、日本は法改正する時に、許諾権にしてしまった。なぜ、そんな法改正をしたかという理由については諸説ありますが、いずれにしても、私は許諾権ではなく、強制許諾制度か報酬請求権を導入すべきだったと思っています。
しかし、文化庁の当時の担当者の解説によると、放送はユーザーが飛んでくる電波をとらえて視聴する。一方、インターネット・ラジオは、ユーザーが配信事業者のサーバーにアクセスして聴くんだから、放送じゃないといっています。「うーん?」という話ですけれど、当時のコピライトの解説にそう書いてあります。しかし、これは世界から見ると、例外中の例外です。技術的な仕組みを重視し過ぎたのかもしれませんね。でも、本来重視すべきは、技術的な仕組みではなく、作用・効果です。ラジオと同じ作用・効果があるなら、ラジオと同一または類似の法制度にすべきでしょう。そうしないと、ラジオ放送からインターネット放送にうまくシフトできなくなります。つまり、テクノロジーの恩恵を誰も受けることができなくなる。デジタル・ネットワーク社会では、デジタル・メディアは複数の権利が働くことが多くなりますが、この視点を欠くと制度設計に失敗することになりかねません。
吉田:他にありますか?
小林:強制許諾制度に対して、日本のレコード・レーベルが反対しているとの事ですが、ユニバーサルやワーナー・ミュージックなど、世界的なレコード・レーベルは、この音楽近代化法を導入する議論の中で、反対していたんでしょうか? それとも、日本の系列会社が独断で反対しているということなんでしょうか。
安藤:私もアメリカで強制許諾制度ができて、サウンド・エクスチェンジができて、レコード・レーベルと実演家の取分比率が50:50になった時の背景を詳しく調べていないのですが、もしもユニバーサル・ミュージックやソニー・ミュージック、ワーナー・ミュージックが猛烈に反対していたら、強制許諾制度は導入されなかったのではないかと思います。私の感覚として、当時のレコード・レーベルの共通認識として、インターネット・ラジオは放送に近いものと考えていたのではないでしょうか。
ただし、番組構成によっては、CDやダウンロード配信とカニバライズするかもしれないから、先程(第6章)言ったような条件を付けたんだと思います。それらの条件をすべてクリアしたら良いでしょうと。そういう攻防があったのではないかと推察します。それがなかったら、ああいう細かい条件を入れていないはずです。レコード・レーベルは「ラジオ放送みたいだね。でも、もしかするとインターネットは無限にチャンネルを増やせるから、1人のアーティストに的を絞ったビートルズ・チャンネルや、1枚のアルバムに的を絞ったリボルバー・チャンネルができるかもしれない。それは困るね」と。だから、細かい制限を付けた。そうするとインターネット・ラジオはFMラジオに近いものになる。電波かネットかの違いだけだから、これはOKでしょうとなった。もちろん、私の推測に過ぎませんが。
今のご質問は「大手3社は、アメリカでうまく行っている事例があるのに、なぜ日本でもやりましょうと言えないのか」ということですよね。日本には、売上トップのエイベックスをはじめ、ジャニーズが手掛けるJ-Storm、ポニーキャニオン、ビクター、日本コロムビアなど国内の有力なレコード・レーベルがたくさんある。ユニバーサル、ソニー、ワーナーの3社はあえて黙っているのか、あるいはドメスティックな人たちは立場が違うのか。私は内部事情がわかりませんけれど、少なくとも、アメリカは成功しているわけです。
非常に示唆に富む貴重な実験的なことをやってくれて、しかも成功しました。失敗したら真似ちゃいけないと思うんですけれども、見事に成功しています。また、アメリカは世界第1位の音楽市場で、日本は世界第2位です。第1位の国が成功したのに、なんで第2位の国はやらないのか。私は甚だ疑問です。そういう疑問をぜひみなさんも持っていただいて、なぜ真似しないのかという疑問をもって、今後の法制度のあり方について考えていただきたいと思います。
吉田:日本でも、こういう法律ができれば、我々レコーディング・エンジニアも、幸せだと思います。こういう法改正を、なんとか実現するように、活動していきたいと思っております。今日は、ありがとうございました。
SECTION.2
9回に渡り、著作権セミナーを掲載いたしました。
安藤先生、ありがとうございました。
また、セミナーに参加された皆さま、ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました。