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JAREC著作隣接権勉強会「アメリカにおけるサウンド・エンジニアの権利、 レコード会社、音楽配信事業者、ヴェンチャーと日本」#6

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2024.10.24
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OUTLINE 概要

JAREC著作隣接権勉強会を全6回に分けて掲載いたします。<第6部>
日時:2024年3月21日(木)15:00~17:00
会場:東放学園音響専門学校 清水橋校舎2F 2S1教室
講師:榎本 幹朗 氏
内容:
・第1部 MMA/AMAで認められたプロデューサー / エンジニアの権利の実際
・第2部 SoundExchangeとメジャー・レーベルの関係
・第3部 日本における可能性 -SoundExchangeとAMAの事例を日本で活かすには-
・第4部 定額制音楽配信事業者のビジネス構造 -Spotifyに支払う余裕はあるのか?-
・第5部 サウンド・エンジニア系のヴェンチャー動向 -「第三の道」として、隆盛するクリエイターズ・エコノミーに焦点を当てたサウンド・エンジニア系のヴェンチャービジネスについて-
・質疑応答

SECTION.1 質疑応答

千阪 邦彦

榎本さん、ありがとうございました。皆さん、何かご質問はありますか。

吉田 論敏

今日は貴重なお話をありがとうございました。私は、コロナ禍の最中、2020年10月19日に、ライブ&カフェスペース「Veats Shibuya」で、「ディスタンス・ビューイング」の初公開を拝見しました。前日に開催された音楽ユニット「ORESAMA(オレサマ)」のワンマンライブ公演をステージ上に再現した一般向けのバーチャル・ライブ・イベントでした。「これはすごい!」と思って、いろんな人に話をしましたが、一緒に見ていないせいか誰も感動してくれませんでした(笑)。今後、リアル・サウンド・ビューイングなどの新しいコンテンツは、どのような形で普及していくとお考えですか?

榎本 幹朗

まずは普通にライブ配信に使ってみることだと思いますね。ライブ配信はコロナ禍が落ち着いたので、市場規模は落ち込んでいますが、元々ライブ配信はとても価値のあるものだと思います。リアル・サウンド・ビューイングを行うと、単純にライブ会場を増やせます。時々話題になりますが、1千人のキャパシティを持つ会場と、1万人の会場で、その中間の規模の会場が全国的に少ない。これはアーティストからすると困ります。  その問題解決の1つとして、リアル・サウンド・ビューイングは合っている。しかも、既存のライブ配信では70%しか満足度がありませんでした。それが98%に上がるという事は、頭を切り替えた方がいいぐらい満足度が高くなります。まず、ライブ配信で使ってみて「評判が良いじゃないか」と評価されながら広がっていくのが一番いいと思います。その先に、ライブ空間自体を真空パックするような時代が来ると思っています。

吉田 論敏

ヤマハさんは、グループ会社でホールの設計などもやっていますが、リアル・サウンド・ビューイングをそこにも売っていこうという考えはあるのでしょうか? このシステムの値段は高いよと言われたんです。

榎本 幹朗

音響に使うということですか?

吉田 論敏

施設にシステムを納品するというイメージです。私が体験した時は、裏を見せていただけませんでした。設備は大がかりなものなのですか?

榎本 幹朗

リアル・サウンド・ビューイングは、特別な機材がほとんどいらないのも特徴です。GPAPという規格は、全ての音響機材、レーザーなどの照明、舞台装置をコントロールするインターフェイスが入ります。インターフェイスをどのくらいで売るのかなどは検討中だそうですが、無茶な値段にはならないと思います。  ただ大きなスクリーンが必要になります。1枚ものにすると200万円くらいしますし、スクリーンが通らない場所があります。それで、組立て式のスクリーンを、ヤマハさんは作りました。それならトラックをチャーターしなくても、宅急便で送ることも可能になるそうです。また、インターフェイス以外はヤマハ製品じゃないと使えないという事はなく、むしろ、誰でも使えるようにGPAPという規格を考えたとおっしゃっていました。

千阪 邦彦

believeという会社の取り組みは、面白いと思いました。その中で私達レコーディング・エンジニアが成果物に対して、売り上げ以外に著作隣接権的なものを得るにはどうしたらいいのでしょうか?

榎本 幹朗

believeは「楽曲の権利はいりません。売り上げの何%だけください」という仕組みなので、アーティストが100%権利を持っています。その方が、時代に合っているという考えですね。

千阪 邦彦

そうすると楽曲を作るとき、予算は別として、販売後にアーティストから直接、私達が使用料をもらえるような契約をするか、believeにそこはお任せするということになるのですか?

榎本 幹朗

日本でもそういうマッチング・サービスができてくるという気はしています。例えばEngineEarsとbelieveのようなディストリビューターなどがやっているレーベル・サービスが結びついて、アーティストが音楽を作るところでサウンド・エンジニアのサポートを受けたいときにマッチングして作品を創り、いろんなところに配信していく。Spotify、Apple Music、YouTubeなどへ配信するとディストリビューターやレーベル・サービスに楽曲の使用料が入ってきます。そのうちの何%かをサウンド・エンジニアや他のスタッフがもらうという仕組みです。

千阪 邦彦

現状では、まだ法律面などが整備されているというわけではないんですね。

榎本 幹朗

はい。これからそうなっていくのではないか、という感じですね。TuneCoreにはスプリットという機能があって、よく使われています。これを使うとアーティストとサウンド・エンジニアが、何対何の比率で権利を得られるか、自分たちで取り決めることができます。そうすればサウンド・エンジニアも楽曲の権利者になります。

千阪 邦彦

私はEngineEarsに登録していますが、まだ1回もやったことがありません。EngineEarsは、アーティストとエンジニアをマッチングするだけです。believeに、楽曲のディストリビューションをお願いするわけですが、believeさんを通してお金が落ちてくるということはないと。

榎本 幹朗

ないですね。EngineEarsは、マッチングするだけで、ギャランティの交渉は、エンジニアとアーティストにおまかせしますという事です。EngineEars自体は出資額が増えて続けているので、継続してうまくいっていると思いますが、ちょっと状況が変わってきていると思ったのは、ディストリビューターという存在が大きくなりつつあることだと思うのです。ディストリビューターは、サブスクでガンガン再生してもらえそうな音楽に対して投資できる。投資できるからギャラが払えるわけです。  ただし、CDも変わらないと思うのですが、サウンド・エンジニアは作っている段階に関わる仕事です。believeは作られた楽曲を配信してみて、これは売れるぞってわかってから投資を始めます。ある意味で非常に賢い。CD時代のレーベルは、作る前から投資しているわけです。だから、制作費が確保されていて、サウンド・エンジニアにもギャラが入ってくるという形でした。それが、これからは違うマネタイズの仕組みがやってくると思います。  先ほどヒップホップの話をしました。ヒップホップがこういう仕組みと相性がいいのは、パソコン1台とマイクだけで曲ができるというのがあると思うのです。1曲めがヒットすれば、2曲目以降はもっとしっかりと録音してみようと予算を掛けるかもしれない。そうなった時に、初めてサウンド・エンジニアのマネタイズとなるかもしれません。先ほどのスプリットのような感じで、権利の一部を報酬としてもらう。時給いくらというのはその前払いというケースも増えるでしょう。

千阪 邦彦

もう一つ、radikoのお話もとても面白いと思ったのですが、私達が彼らとお話するときに、どういう道のりがあるのか、もう少し詳しく教えていただけませんか。

榎本 幹朗

radikoに限らず耳のメディアは、まだまだ潜在需要があると思います。いまスマホでYouTube、TikTokやウェブサイトなど目で見るメディアが多いですけれど、耳はまだ伸びるという予測をしている世界的なマーケティング会社のデータがあります。だから、いまのradikoの規模感で考えない方がいいと思います。  ただradikoは、唯一日本の多くのラジオ局がまとまっている場所じゃないですか。電通さんが音頭を取って、インターネットでラジオ放送を流した場合は、地上波と同じように、楽曲の使用料は払うということに決まったわけです。  そうするとradikoで、ポッドキャストをやりたいから、ポッドキャストに関する取り決めをしておこうという流れになる可能性があります。その時「みんなでまとまってルールを作ろうよ」ということになりやすいと思っています。世の中って予想もしなかったところから新しいサービスが来て、それが大きく広がっていく。いまの日本はそうした状況が生まれやすい場として、radikoは大きいと思っています。

浜田 純伸

believeの話で、日本はヨーロッパ型の著作権と著作隣接権が分離している国です。今回のお話は、そういうことではなくて、もっと包括的に原盤権も隣接権も含めてアーティストの権利として認めて、そこからの分配という形に流れていくという理解でよろしいでしょうか。

榎本 幹朗

そうですね。believeはフランスの上場企業だと申し上げましたが、アジア各国でかなりうまくいっていて、インドやインドネシアでは、ソニーやユニバーサルと同じぐらい大きくなっています。そういう国が、どんどん増えてくると思うのです。つまり、第三世界にどんどん音楽が広がっていく。まず、IFPI(International Federation of Phonogram and Videogram Producers、国際レコード・ビデオ制作者連盟)による世界の音楽の売り上げ見ていると、日本を除く先進国はサブスク景気やライブのバブルが終わって低成長に戻っているんですよ。だから、ワーナーやユニバーサルの偉い人は、アフリカがこれから一番伸びるという理由で行っています。ただそういう国は、権利関係の法整備がまだぐちゃぐちゃだと思うんですよ。そういう地域では、信用できるのは法律ではなくプラットフォームによるお金の分配システム。サブスクを使って、それで得たお金をどう分配するかというところ、つまりあまり法律や権利と関わらないところでお金を分配していく。それを取りまとめるために、レーベルもやっていますが、一番頑張っている業者がディストリビューターです。権利がどうのという事は、地球規模で見るとちょっとレーベルが弱くなっていくという気がしています。  今後は権利よりも契約。「売り上げの何%をください」みたいな。そこにきちんとサウンド・エンジニアも関わっておくことが大事、となるような未来を考えています。私もこの変化に対して5年がかりで頭を切り換えました。

浜田 純伸

そうすると、今まで我々が目指してきた著作隣接権の権利を得たとしても、マネタイズは2次使用に限られるわけです。しかし、ネット社会がより進むと2次使用という概念そのものが、今後成り立たなくなるのでしょうか。

榎本 幹朗

そうですね。私はそこまで大胆なことは言えませんが、2次使用料は歴史的にテレビやラジオ放送で使用するための理由だったと思うのです。それとレンタルCD。どれも時代の中心から外れつつあります。放送やCDの比重がどんどん下がって、デジタル配信経由でコンテンツを楽しむ時代になりました。しかも放送は基本無料ですが、サブスクリプションでお金払ってくれる時代に入りました。  そうすると、なぜアメリカのすべてのデジタル配信業者、レコード・レーベル、ソング・ライター、レコーディング・アカデミーがMMA(Music Works Modernization Act)に賛同したのか。ストリーミングが、メインの収益になったからです。もうラジオやテレビの代わりになっている。Spotifyはラジオになっている。そこが楽曲の宣伝の場でもあるし、稼ぐ場にもなっています。  そこで、みんなで分配のルールをきちんと透明化しましょうと言い出したわけです。そのためには、プロデューサーの権利を、はっきりさせておかないといけないですよね。それで全員が「そうだね」と納得できた気がするのです。今後も先進国は著作権法で権利をしっかり明示する。そこはストリーミング配信時代でも大事なのは間違いないと思います。

吉田 保

榎本先生、そして、参加された皆さん、今日は長い時間ありがとうございました。権利を獲得することは非常に難しいですね。今後は権利よりも、分配を受けることの方が大切なのですか?

榎本 幹朗

今後も権利はもちろん大切です。しかし技術的変遷の根本的なところを見るとDTM時代になって、今はパソコンだけでも音楽が簡単に作れるようになってしまった。聴き放題も合わさって楽曲が爆発的に増えて、権利云々以前に作った楽曲をマネタイズする方法が弱まっている気がするんです。その爆発的な曲の増加をマネタイズしているディストリビューターやレーベル・サービスという新しい存在が出てきています。例えばそこと何ができるかを、考えていく必要もあるでしょう。ただ技術はどんどん進歩しますので、これから先はどうなるか。サブスクやストリーミングだけでは終わりません。次が来ます。

吉田 保

そうですね。我々は生音を録っているエンジニアが始めた団体ということもありますが、DAWで作るものも音楽でしょう。でも、昔から培った技術力、並びに創作力、それが皆さんの力となっています。その能力を活かし著作隣接権の獲得、そしてしっかりとマネタイズについて考えたいと思っておる次第でございます。  長時間、どうもありがとうございました。

ー完ー


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